日本大百科全書(ニッポニカ) 「立ち木トラスト」の意味・わかりやすい解説
立ち木トラスト
たちきとらすと
ゴルフ場の建設に反対する住民が、特異な発想によって起こした実践的な運動である。1990年代に岐阜県恵那(えな)郡山岡町(現、恵那市山岡町)で始まった運動で、ゴルフ場予定地にある「立ち木」を地権者から買い取って、住民の名前を書いた札を下げておく。少数の地主から土地は買収できても、多数の立ち木所有者との交渉は困難である。ゴルフ場建設は遅々として進まない、ということになる。70年代に新東京国際空港(現成田国際空港)に反対する三里塚(成田市)の農民とその支援者が行った、空港予定地内の土地をこまぎれにして多数が所有する「一坪地主」運動と発想は似ている。立ち木トラスト運動の特色は、立ち木権1本が5000円程度と安いことであり、地域住民だけでなく都市住民も参加できることである。
自然地域の乱開発に対して保全を図る動きがいろいろな形で現れてきた。1987年(昭和62)に制定された総合保養地域整備法(通称リゾート法)は自然地域の開発の制約を緩和してリゾート開発を積極的に進めようとするもので、とくにゴルフ場の乱開発は目に余るものがあった。
このような状況のなかで起こされた運動の一つとして「立ち木トラスト」は、多くの共感をよび全国的な広がりをみせ、定期的に「立ち木トラスト通信」を発行するまでになった。この運動の成果は、関西方面などでゴルフ場の建設を阻止したいくつかの事例がみられる。ほかにも新幹線の建設、スーパー林道、道路建設、原子力発電計画、ダム建設、産業廃棄物処分場建設などに反対する、立ち木トラスト運動が起きている。
広義のナショナル・トラストとも考えられるこの運動は、社会的に有意義なものとして評価されるが、開発事業の圧力に対しては必ずしも力強いものではない。立ち木の土地の賃貸借契約を結ぶなどの方策によって、法的権限の強化を図ることが検討されている。
[池ノ上容]