筋電図

内科学 第10版「筋電図」の解説

筋電図(電気生理学的検査)

筋電図(electromyogram)(2)
a. 針筋電図検査(needle electromyography)
 i)目的
 筋電計に接続した電極を筋内に入し,安静時と随意収縮時の筋線維放電を記録して,運動ニューロン,運動神経線維,筋組織の病態を知る検査である.
 ii)原理
 1個の前角運動ニューロンとそれに支配される筋線維群を運動単位(motor unit:MU)とよぶ.筋組織は多数のMUから構成され,個々のMU支配筋線維は筋内にモザイク状に散在する.1個の運動ニューロンのインパルスから生じた支配下筋線維電位の総和を運動単位電位(motor unit potential:MUP)(図15-4-4)とよぶ.随意運動では弱収縮では少数の,強収縮では多数のMUが動員され,そのMUPが筋電図として記録される.安静時自発放電の有無,ならびにMUPの形状変化と動員様式の変化から,運動ニューロン,運動神経線維,筋組織の病態を推察する検査が針筋電図検査である.
 iii)方法
 標準的検査には同心針電極(coaxial needle)を用いる.これは内壁を絶縁した注射針に直径0.1 mmほどの導線を封入し,先端を活性電極として露出させたものである.活性電極の周囲約1 mm範囲以内の筋線維放電が記録される.検査は,①安静時,②弱収縮時,③強収縮時の3段階で行う.
 iv)所見の解釈時:
 健康人の場合,力を抜いたリラックス状態では筋放電がない(silent).ただし,筋に刺入した針先の動きや位置によって次のa),b)が誘発される.
 a)刺入電位(insertion activity):針先が筋膜を貫通して筋内に刺入されたときにみられる数十msecの一過性電位である.異常性なし.
 b)終板雑音と神経電位:針先が神経筋接合部に触れたときにみられる.前者はノイズ様の低電位持続性高周波電位,後者は持続時間の短い陰性棘波である.異常性なし.
 c)脱神経電位(denervation potential)(図15-4-5):脱神経筋線維が発する病的電位で,進行性運動神経変性の重要な指標である.フィブリレーション電位(筋線維電位)(fibrillation potential)と陽性鋭波(positive sharp wave)の2つがある.前者はb)類似の棘波だが,初期陽性相を有することで鑑別される.脱神経電位は筋線維断片が発生源の場合もあり,糖原病,筋炎,Duchenne型筋ジストロフィ症など筋原性疾患でも出現する.
 d)筋線維電位(fasciculation potential):筋線維束性攣縮に伴ってみられる自発性MUPである.健常者でもみられる場合があるが,高振幅,多相性,長持続時間の筋線維束電位は筋萎縮性側索硬化症の特徴である.
 e)ミオキミア電位(myokimic potential):MUP集団の自発性反復放電で,多くは末梢神経の異所性放電に由来する.テタニー発作などでもみられる.
 f)ミオトニー電位(myotonic discharge):振幅・周波数が漸増漸減する自発性反復放電で,筋強直性ジストロフィ症を含むミオトニー疾患にみられる.筋電計のスピーカーから急降下爆撃音(dive-bomber sound)が聴かれる.
 g)複合反復放電(complex repetitive discharge):ミオトニー電位類似の高周波反復放電だが漸増漸減せず,突然始まり突然止まる.筋線維間に生じた病的短絡によると推定される.筋炎などの筋疾患や運動ニューロン疾患でしばしばみられる.
2)弱収縮時:
 等尺性弱収縮で個々のMUPを分別記録する.刺入した針先の位置を変えながら施行すれば,複数のMUPを観察できる.正常四肢筋MUPは,図15-4-4のように,1~3 mV,持続時間数msecで,3相性以下が多い.
 a)多相性運動単位電位(polyphasic MUP):5相性以上の異常MUPである.筋疾患でみられるものは,振幅低下と持続時間短縮を伴い(図15-4-6上),低振幅棘波様電位(low amplitude spiky MUP)である.神経原性疾患では通常型MUPに再生神経による筋線維再支配電位が加わった形状となる.
 b)高振幅電位(high amplitude MUP)(巨大電位,giant MUP)(図15-4-6下):5 mVをこす高振幅MUPを指し,多くは多相性MUP内の再生線維伝導の同期化が進んだ結果であり,神経原性疾患でみられる.脱神経と再支配を繰り返すほど巨大になる.
3)強収縮時:
健常者では,収縮を強めるにつれてMUPが徐々に動員され(recruitment),最大収縮時,個々のMUPが識別不能の干渉波形(interference pattern)が形成される.
 a)MUP動員不良所見(poor recruitment pattern):神経原性疾患ではMU数減少があるため,随意収縮を強めても新たなMUP参入が限られる.したがって,干渉波が形成されにくい(図15-4-7左).高振幅電位の動員不良所見を指して神経原性所見とよぶ.
 b)MUP早期動員所見(early recruitment pattern):筋原性疾患では個々のMUの筋力低下があるため,弱収縮に際しても多数のMUPが動員される.筋原性変化による低振幅棘波様MUPの早期動員は,極度に細かな干渉過多波形を形成し(図15-4-7右),筋原性所見とよばれる.
b.その他の筋電図手法
i)単一線維筋電図
(single fiber electromyogram:SF-EMG) 同一MUP内の筋線維電位を分離観察する手法である.おもに神経筋接合部疾患で個々の筋線維興奮のばらつき(jitter)を測定するために行われる.
 ii)表面筋電図(surface electromyogram)
 目的筋直上の皮膚に添付した表面電極によって複数筋の筋活動を記録し,筋収縮の相互関係をみる検査である.おもに不随意運動の分析に用いられる.[馬場正之]

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六訂版 家庭医学大全科「筋電図」の解説

筋電図
(脳・神経・筋の病気)

 筋電図(EMG)は、神経筋疾患の鑑別診断には欠かせない検査です。針を刺し入れる針筋電図検査と、電気刺激を与える誘発筋電図検査に分けられます。

針筋電図(しんきんでんず)

 針を筋肉に挿入して筋細胞活動を観察します。運動単位(ひとつの運動神経により支配される筋群)がつくる電気活動の性質をみることにより、末梢神経異常(活動時間の延長、多相化、電位が大きくなる)なのか、筋異常(電位が小さく、時間は短く、多相化)なのかがわかります。

誘発筋電図(ゆうはつきんでんず)

 末梢神経の伝導速度検査と、末梢神経連続刺激検査に分けられます。前者は、末梢神経異常の質・量的診断に役立ちます。後者は、神経筋接合部の機能が診断できるため、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)の診断に用いられます。

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百科事典マイペディア「筋電図」の解説

筋電図【きんでんず】

筋肉の収縮に伴って発生する活動電流を記録した図。EMGと略記。皮膚の表面に電極を貼付(てんぷ)する表面電極法と,針状電極を筋肉に刺入して筋肉一局所の電位を導く針電極法とがあり,後者は個々の筋肉の働きを分離して調べるのに都合がよい。筋収縮の活動単位である神経‐筋単位(運動単位,NMUとも)の活動電流が持続時間の短い放電(スパイク放電)の反復として現れ,筋収縮の程度が大きくなるに従って頻度(ひんど)が大になる。筋肉の生理的研究,筋肉や運動神経の障害の診断のほか,トレーニング効果の確認等に使用。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「筋電図」の解説

筋電図
きんでんず
electromyogram; EMG

心電図脳波同様,筋肉の活動電位を波形で記録したもの。その波形の特徴によって,神経系や筋肉の障害の有無,種類,性質,部位などの診断に役立つ。検査にあたっては,皮膚に電極を張り付けたり,細い針の中に電極を入れた針電極を筋肉に差込んだりして活動電位を取出し,筋電計で増幅して記録する。

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デジタル大辞泉「筋電図」の解説

きんでん‐ず〔‐ヅ〕【筋電図】

筋肉が収縮するときの活動電位の変化を筋電計で測定し、グラフに表したもの。運動機能障害の診断・検査などに利用。EMG(electromyogram)。

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精選版 日本国語大辞典「筋電図」の解説

きんでん‐ず ‥ヅ【筋電図】

〘名〙 筋肉の収縮するとき発する活動電位の変化を、器機に記録させグラフにしたもの。臨床的には運動能力障害の診断、検査などに用いられる。

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世界大百科事典 第2版「筋電図」の解説

きんでんず【筋電図 electromyogram】

EMGと略す。骨格筋が生体内にある状態でその活動電位を記録したもの。記録する装置を筋電計という。筋電図の記録法には,皮膚の表面に電極をはりつけて活動電位を記録する表面誘導法と,針状の電極を筋肉に刺入して筋肉局部の活動電位を記録する針電極法とがある。骨格筋による身体の運動は筋肉を支配する運動神経の活動によっておこる。運動神経は多数の運動神経繊維の束からなり,個々の運動神経繊維は数本から100本以上の筋繊維を支配している。

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