家庭医学館 「細菌性市中肺炎」の解説
さいきんせいしちゅうはいえん【細菌性市中肺炎】
肺の中に細菌が感染しておこる肺炎です。細菌がどこから肺に入るかというと、口の中にもともといた菌が気道(きどう)のほうに落ちて吸い込まれる、肺以外のところに病巣(びょうそう)をつくっていた細菌の一部が血液に入って肺に流れつく、などが考えられます。
ふつうは、インフルエンザウイルスやほかのウイルスによって上気道(じょうきどう)に炎症がおこり、その後に(二次的に)細菌による肺炎がおこります。
[症状]
かぜの症状に続き、ぞくぞくするような寒け(悪寒(おかん))、発熱、息苦しさ(呼吸困難)、胸の痛みなどがおこってきます。膿(うみ)のような色のついた粘りのあるたん(膿性(のうせい)たん)がみられることが多いものです。
炎症が肺を包んでいる胸膜(きょうまく)にまでおよぶと、胸に水がたまったり(胸水(きょうすい))、膿がたまったり(膿胸(のうきょう))します。
糖尿病をもっている人やアルコールをたくさん飲む人では、肺に空洞(くうどう)ができて、悪臭のするたんが出ることもあります(肺膿瘍(はいのうよう)、肺化膿症(はいかのうしょう))。
もともと肺に病気があった人や肺炎が広がった人では、血液中の酸素が不足して、酸素吸入が必要になります。
菌が血流に運ばれて全身に散らばって感染が広がった状態を敗血症(はいけつしょう)(「敗血症」)といい、多くの臓器に障害がおこって、重症になります。
[検査と診断]
原因である細菌を見つけることが、細菌性肺炎と診断する有力な証拠になります。ふつうは、たんを調べますが、口内にもともといる菌もいっしょに検出されてしまうため、原因となっている細菌を決めるには注意が必要です。
そのため、直接に肺や気管に針を刺して細菌を採取する方法や、気管支に内視鏡を入れて肺を洗い、その洗浄液に含まれる細菌を調べるという方法が使われることもあります。
胸部X線写真をとると、病気の状態により、さまざまな陰影がみられます。
肺炎が進むと、本来空気が入っている肺胞(はいほう)の中に、炎症細胞や液体が充満してくるので、べったりした陰影が広がり、気管支が黒く抜けてみえるようになります。
血液検査をすると、通常、白血球(はっけっきゅう)が増加して、炎症があることを示すいろいろな反応も強く現われます。
以下、代表的な細菌性肺炎について述べます。
■肺炎球菌肺炎(はいえんきゅうきんはいえん)
溶連菌(ようれんきん)の一種、肺炎球菌という細菌によっておこり、市中肺炎のなかでもっとも多い肺炎です。
若い人や健康な人もなりますが、基礎疾患をもった人や、手術で脾臓(ひぞう)をとってしまった人では、重症になりやすいのです。
突然に悪寒や発熱が現われ、膿のようなたん(典型的なのは、赤さび色のたん)が出るようになります。
昔は、1つの肺葉(はいよう)全体が感染をおこして、胸部X線写真にべったりした陰影がみられる(大葉性肺炎(だいようせいはいえん))ことが多かったのですが、抗生物質による治療がふつうになった今では、このような進んだ病状を示す陰影をみることは、少なくなりました。
このタイプの肺炎は、抗生物質の使用などの治療がうまくいくのがふつうですが、近年、抗生物質がきかない耐性の細菌が出現してきています。
■インフルエンザ菌肺炎
インフルエンザ菌という桿菌(かんきん)(かつてはインフルエンザをおこすのではないかと疑われたため、こういう名前がついた)が原因でおこる肺炎です。
健康人が発症する場合と、肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)や気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)などの病気にかかっている患者さんに、二次的におこる場合があります。
症状やX線写真の像では、ほかの細菌性肺炎と比べて、はっきりした特徴があまりありません。ふつう、治療の効果がよく現われます。
■黄色(おうしょく)ブドウ球菌肺炎(きゅうきんはいえん)
黄色ブドウ球菌による肺炎ですが、MRSA(多剤耐性黄色(たざいたいせいおうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん))などが原因の院内肺炎とちがい、市中肺炎での頻度は多くありません。
ブドウ球菌は、菌外へ毒素を出すため、肺の組織が死んでこわれ、空洞や膿瘍ができるという特徴があります。
■クレブシエラ菌肺炎
クレブシエラ菌(肺炎桿菌(はいえんかんきん)ともいいます)によっておこる肺炎です。健康人におこることはまれで、高齢者や糖尿病の患者さん、アルコールをよく飲む人に発症しやすい特徴があります。
肺炎球菌と同じように、大葉性肺炎をおこしたり、空洞をつくることがあります。血液中に細菌が入ることが多く、しばしば重症化します。
■レジオネラ肺炎
レジオネラ菌という桿菌によっておこる肺炎です。1976年にアメリカの在郷軍人大会で集団発生し、初めてこの細菌が発見されて有名になりました。そのため在郷軍人病(ざいごうぐんじんびょう)ともいいます。
この細菌は、どこにでもふつうにおり、ビルの冷却塔や水道水、温泉水などからも見つかります。高齢者や抵抗力の低下した人が、この細菌を大量に吸ったり飲んだりすると発症します。
肺炎をおこしている菌を検出するのはむずかしく、細菌を抗原(こうげん)とする血液中の抗体(こうたい)が大きく増えていることが診断の決め手となることが多いのです。
日本では欧米に比べて、レジオネラ肺炎が報告されることが少ないのですが、重症になりやすく、かかると死亡することも多い肺炎です。
初めから呼吸困難がひどく、急速にX線検査でみられる陰影が広がって、肝臓や腎臓(じんぞう)のはたらきが低下したりすることもあります。また、精神や神経の異常が目立つこともあります。
他の細菌性肺炎に使われる抗生物質が無効のことが多く、注意が必要です。