最新 心理学事典 「組織変革」の解説
そしきへんかく
組織変革
organizational change
カッツKatz,D.とカーンKahn,R.L.(1973)が指摘したように,組織は,環境に開かれたオープン・システムであり,刻々と変化する環境に適応していくことで存続し発展する存在である。既存の組織経営のあり方を維持するだけでは,環境の変化に適応することが難しい場合も起こってくる。また,組織は形成してからの時間経過とともに発達し,成熟していく存在でもある。成熟が進むと,前例や慣習やしきたりにこだわったり,縄張り意識が強くなったり,組織内のゴシップには熱心に耳を傾けるのに,組織の外の世界の情報には無関心になったり,さらには,議論は盛んにしても実践の段階になると躊躇したりする硬直化現象が見られるようになる。このように組織変革への要因は,変動する環境への適応と組織の発達と成熟がもたらす硬直化の両面で考える必要がある。いずれも組織にとって不可避の要因であり,変革は必然的に取り組むべき課題となる。
組織変革の手順を考えるときの基盤として,レビンLewin,K.(1951)の3段階モデルは,古典的でありながら現在も影響を与えつづけている。このモデルは,組織変革を,①解凍unfreezing それまで慣れ親しんだ日常の行動や伝統やしきたり,あるいは職務遂行システムや既存の思考様式から脱却して新たな変化が必要であることを成員に理解させる段階,②移行moving 変革を実践する段階であり,成員に新しい行動様式や思考様式を学習させる段階,③再凍結refreezing 導入した変革を成員たちに定着させ,慣習化させる段階の3段階を踏んで行なうというものである。このモデルはシンプルで明快なところが評価され,広く受け入れられると同時に,段階をさらに細分化したモデルや,組織変革を実践する際に必要となる応用的な知識を付加したモデル等も提示されている。組織変革は,結局のところ,個々の成員が変革の必要性を認知し,自律的に変革に取り組む態度が定着して初めて成功したといえるものである。しかし,その実現は容易ではない。なぜならば,人間はそれまで自分が育んできた行動様式や思考様式を維持し継続させようとする傾向を強くもっており,基本的に変化への心理的抵抗を示す存在であるからである。自己が変化することは過去に自分が蓄積してきた実績をいくばくかでも否定することであり,情緒的な痛みを伴う。それに加えて,自分が変化することが将来の成功を確実に保証するわけではなく,不安を感じる。個人が変化に対して心理的抵抗を示す傾向は頑健であり,組織変革に際して,克服すべき重要課題となる。
組織変革は,問題が発生してから対症療法的な対応として行なうのではなく,自組織の成熟の程度を見極め,また外的環境のこれからの変動を先読みして行なう創造的なものであることが望ましい。成員各人が経験に基づいて蓄積してきたノウハウや信念など主観的知恵は暗黙知の形態を取り,そのままでは各人の内的世界に閉じ込められたままで活用されにくい。創造的な組織変革を進めるには,暗黙知を言語化して他者にもわかる形式知に変換して伝え合い,成員皆で共有する工夫と取り組みが課題となる。 →集団意思決定 →集団間関係 →組織行動
〔山口 裕幸〕
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