仏式で死者を葬るとき,死装束(しにしようぞく)として着せる浄衣。経衣(きようえ)ともいう。白の麻や木綿,または紙布などでつくる。裏地をつけずにひとえとし,縫い目の糸はとめないでおく。衽(おくみ)や背に〈南無阿弥陀仏〉〈南無妙法蓮華経〉の名号・題目,また真言(陀羅尼(だらに)),種子(しゆじ)(梵字),経文などを書き,朱印を押す。《不空羂索真言経(ふくうけんじやくしんごんきよう)》に,重罪のものもこれを着すれば解脱(げだつ)を得るとあり,死者もこれを身につけると生前の罪が消え,地獄の責め苦をまぬがれ,浄土に往生できるとの信仰が生じた。死者に着せることは,真言宗で鎌倉時代ごろから始まったらしい。立山山麓の芦峅(あしくら)寺では,昭和初年まで布橋灌頂(ぬのはしかんぢよう)が行われていたが,このとき用いられた白布は大灌頂に入行した女性信者らにわけられ,彼女らはこれを経帷子に仕立て,自身の死出の旅装束とした。浄土宗の信者が五重伝法(ごじゆうでんぼう)で着る浄衣も経帷子の一種である。背面に〈南無阿弥陀仏〉の名号を書き,朱の仏判を押すが,本人が死んだときにはこれを死装束とする。巡礼者が着る袖無しも経帷子であり,生前に着るので寿衣(じゆえ)という。経帷子は,今日,葬送儀礼に関する重要な民俗用語となっている。
執筆者:伊藤 唯真
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