8世紀段階での浄衣は,写経所における経師,校生,装潢(そうこう)等の写経に従事する職員,また仏工・木工等の造仏技術者,その補助的作業を行う自進,仕丁,駈使丁や廝女(かしわでめ),そして奴にいたるまでの階層に支給された衣服をいう。おそらく写経や造仏が宗教的作業と考えられたため,これに関連する仕事を行う者の衣服が,浄衣と称されたものらしい。おおむね盤領(あげくび)の衣(袍(ほう))と袴(はかま),女性の場合は裳(も)の組合せであるが,襖(あお),汗衫(かざみ),褌,冠,襪や被,前裳,早袖等を含める場合がある。絁(あしぎぬ)製と麻布製の2種があり,写経事業の中心的従事者には絁の浄衣が支給された。色は素地のほか,紅や赤黄色,また摺染(すりぞめ)を施したものがある。なお浄衣は,写経所内部で女性たちの手によって縫製され,貸与されたものらしい。返上された浄衣の洗濯も所内で行われたことが知られる。夏冬に応じて袷(あわせ)と単(ひとえ)の2種があったが,着替えの衣服支給はなく,1年間着つづけると,もはや着用に耐ええなかった。なお,平安期以降の浄衣は形も狩衣(かりぎぬ)形式へと変わり,神事等に従う際に,尊卑を分かたず一律に着用する衣服をいい,現代でも神官に用いられている。
執筆者:武田 佐知子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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