中国医学の基本概念である経脈(奇経8脈を含む)上にある穴(鍼灸(しんきゆう)療法での刺激点)の意味に用いられているのが普通である。ただ注意しなければならないのは,とくにそのなかの経渠(手太陰),陽谿(手陽明),解谿(足陽明),商丘(足太陰),霊道(手少陰),陽谷(手太陽),崑崙(足太陽),復留(足少陰),間使(手厥陰),支溝(手少陽),陽輔(足少陽),中封(足厥陰)という,12経脈上の手と足の関節部部分またはその少し中枢寄りの部分にある1個ずつの特定の経穴を指すこともある。以下に述べるのは通常用いられている広い意味の経穴である。経穴は俗に〈つぼ〉と呼ばれて,鍼(はり)をうつとか灸(きゆう)をすえるとか刺激を加えることによって,遠く離れた場所に反応を起こして病変を好転させることのできる部位である。
経穴は《素問》(《黄帝内経》)や《甲乙経》などの古い文献では気穴や孔穴とも呼ばれている。鍼灸治療に用いる刺激点は経脈上の点だけではなく,不特定の指で圧すことによって痛みや快感などを感じる阿是穴なども含まれる。腧穴(または輸穴)という語にも,経穴と同様に経脈上の特定の刺激点を示す場合と広い意味に用いられる場合があり,広義の腧穴は広義の経穴と同様に用いられているが,経脈上にない刺激点をも含めるのが普通である。経脈の考えと経穴の考えと,どちらが先に成立したかは明らかでない。前168年(前漢の文帝12)に築造された馬王堆漢墓のなかから発見された馬王堆医帛には,経脈の記載はあるが,経穴には触れていない。しかし武威(甘粛省)の後漢初期の墓の中にあった〈武威医簡〉には三里と肺兪という穴名が記載されているし,漢代の医学思想を伝えているといわれる《太素》や《素問》などには160の穴名が挙げられているから,経穴は漢代には知られていたと考えられる。晋初に書かれたといわれる皇甫謐(こうほひつ)の《甲乙経》には現在知られている経穴名がほとんど出そろっていて,各脈ごとに整理され,その位置も詳しく記載されていて,経脈と経穴についての考えが,漢代にほぼ完成したことを示している。
経穴の数や位置は,その後学者によって違いが生じたため,北宋の1027年(天聖5)に王惟一によって最終的に整理された。彼は諸家の説を検討して経穴の順序と位置を決定し,銅製の人体模型(銅人)を鋳造して,その表面にその位置を示し,同時に《銅人腧穴鍼灸図経》を著して,それを記載した。経穴の数にはその後も多少の増加が見られる。経穴は経脈を循環している気が体に出入したり,たまったりする地点と考えられている。
経穴の近代医学的な性格については種々の検討がなされ,圧痛点であるとか,周囲より電気抵抗の減弱している点であるとかいわれているが,解剖学的証明にはまだ成功していず,定説はない。現在では経穴は文献に記載された部位の付近にあり,鍼を刺していくと,電気に触れたようなしびれるような感覚の起こるところであるとされている。
→経絡
執筆者:赤堀 昭
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鍼灸(しんきゅう)治療で、鍼(はり)や灸を行う部位で、「つぼ」ともいう。東洋医学(中国医学)の人体構造論、機能論によると、胸腹内臓にあたる五臓六腑(ろっぷ)(実際には六臓六腑とされる)が正常な機能を営むために、全身にわたって12の循環系統があり、これに沿ってエネルギー(気血)が巡るとされる。この循環系統を経絡(けいらく)とよび、この経絡上に点在するのが経穴である。経穴は、それぞれが所属する経絡を循環するエネルギーの過不足を診るところであると同時に、その過不足を整えて、人体機能を正常に復する治療点でもある。実際の治療で経穴を探すには、古典医書に基づき、定められた標準位置を中心に指先で軽く皮膚上をさすり、なでてみて、皮膚の栄養状態(ざらざらしているか、皮疹(ひしん)〈発疹〉などがないかなど)を調べ、ついで軽くその部位をつまんでみる。経穴部は、とくに軽くつまんだだけで走るような刺痛がある。さらに軽く指先で圧すると、痛みに伴って、皮膚の下に固い凝りや、しこり様のものとして感じられる。つまり、経穴は触診や圧診によって確認されるのである。経穴は電気が流れやすいということがつきとめられ、いろいろな電気探索器(ノイロメーター、皮電計など異種同類の機器)が創案され、これによって経穴をみいだす方法が広く行われるようになったが、治療上の効果が期待できる経穴のすべてが、電気が流れやすいとはいいがたい。経穴は全身で365あるとされるが、経絡にないものを含めると、その数はさらに多くなる。
[芹澤勝助]
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…中国で発達した物理療法で,体表に金属針を刺す(鍼をうつ)か,もぐさを置いて火をつける(灸をすえる)という刺激を加えることによって病気を治療する。種々の手法が存在したらしいが,もっとも普通に用いられてきたのは,経穴(俗につぼという)という体表の特定の部位を刺激して,多くの場合そこから離れた部位にある病変を治癒させるものである。鍼灸の治療理論になっている経脈(けいみやく)説は,人体には経脈という脈管があり,そのなかを気が循環して生理機能をつかさどっているというもので,その基礎は漢代に成立したと考えられる。…
※「経穴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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