改訂新版 世界大百科事典 「総合収支」の意味・わかりやすい解説
総合収支 (そうごうしゅうし)
国際収支の包括的な収支を示すもので,経常収支に長期,短期の資本収支を加えたもの(国際収支表では統計上の誤差を示す誤差脱漏も含む)。総合収支は固定為替相場制のもとでは,為替レートを一定に保つためにファイナンスしなければならない額を示すので,その国の通貨の強さ・弱さを示す重要な収支である。しかし変動為替相場制(フロート制)のもとでは,その国の通貨の強弱は為替レートに反映されるので,総合収支のもつ意義はかなり減少する。ただし変動相場制のもとでも,総合収支の大きさは対外流動性ポジション(民間金融部門の対外短期資産・負債と外貨準備を加えたもの)ないし外貨準備の変化に大きくかかわってくるので,無視することはできない。総合収支のとらえ方には,日本,フランス,イタリアのように総合収支に含める短期資本収支として民間非金融部門のそれのみを取り上げる場合(非金融取引収支とも呼ばれる)と,西ドイツ,イギリスのように民間金融部門の短期資本移動も含めて考える場合(公的決済収支とも呼ばれる)がある。アメリカは1975年まで公的決済収支と純流動性収支を公表していたが,純流動性収支は民間短期資本収支を部門別ではなく流動性があるかどうかで区別し,非流動性短期民間収支を基礎収支に加えたものであり,前者に近いと考えられる。どちらの総合収支の概念を用いるかを決定する際には,政策当局が民間の金融機関に対して統制力をもっているか,あるいは民間金融機関がどれだけファイナンスの機能を果たしていると考えるかなどが考慮に入れられた。1996年1月からの国際収支表の全面改訂に伴い,この概念は廃止された。
→国際収支
執筆者:須田 美矢子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報