ロシア語でpolitekhnicheskoe obrazovanieあるいはpolitekhnizm(ポリテフニズム)ともいう。教育と生産労働の結合を通して人間の全面的発達をめざす教育思想で,科学的社会主義の教育思想の重要な構成部分となっている。この思想の萌芽は,〈農夫のように働き哲学者のように思索する〉人間を理想としたJ.J.ルソーの《エミール》(1762)や,工場労働と教育の結合を試みたR.オーエンなどにもみられたが,マルクスは,機械制大工業の発展の本性が人間の全面的発達を不可避とするととらえ,今後の教育は知育,徳育,体育,総合技術教育で構成されねばならないとした。この総合技術教育の思想は,レーニン,N.K.クループスカヤによって詳細に研究され,ソ連をはじめとする社会主義国で実際化された。現代の総合技術教育は,社会主義生産の科学的原理を学ばせ,労働用具や機械を扱う習慣を習得させ,現代の技術と技術学に通暁する能力を形成させることを目的とするとされてきた。またこれは,普通教育とかたく結びつき,若者たちに将来の職業につく準備を与え,彼らを積極的な生産者に育てあげ,教育と生産労働との結びつきを促進し,人間を全面的に発達させることを目的とするとされてきた。クループスカヤは,総合技術教育は,なにか特別の教科ではなく,全学科に浸透し,物理や化学などの自然科学や社会科学の教材の選択に反映するものでなくてはならず,これらの学科の相互結合が必要であり,それらの学科と実践的な活動との結合,とりわけ学科と労働の教授・学習との結合が重要で,このような結合のみが労働の教授に総合技術的性格を付与する,と強調した。しかし,労働と教授の結合についてはいくたの試行が重ねられ,旧ソ連の国民教育では,低・中学年では教育課程のなかに社会的有用労働を導入し,高学年では,学校外に学校と工場企業の協力で設立されている教育・生産コンビナートのなかで実施する方式を採用していた。
執筆者:佐々木 享
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ロシア語のポリテフニズムполитехнизм/politehnizmの訳語。ポリ(多種、多科)テフニズムは、現代の生産の基礎となっている自然科学の原理や法則を理解させるとともに、生産の基礎にある技術の科学的原理はどのようなものであるか、また、これらの原理や理論が生産のなかでどのように適用されているかなどを、特定の教科だけで教えるのではなく、すべての教科の教授=学習、つまり学校教育全体を通して総合的に行うものである。
ポリテフニズムは、もともとマルクスの「あらゆる生産工程の一般原則を教え、同時に児童と少年にあらゆる職業の基本的な道具の実地の使用法や取り扱い方の手ほどきをする」、また「技術教育」などから始まった。この考えはロシア革命後のソビエト政権に受け継がれ、ポリテフニズム教育へと発展していった。しかし、このポリテフニズムはその実践にあたっては、時代によってそのあり方や内容が変わっていったが、それは、次のような基本方針に基づいて行われてきた。
〔1〕知識の形式主義的要素を克服し、知識を実際に適用する能力の育成。
〔2〕自然諸科学や数学の基礎の学習の過程で生産の科学的基礎を知らせる。
〔3〕一般教育の教科は初歩的な技術や技術学的知識、生産に利用される器具・設備を取り扱う実際的な能力を与えることができないので、「労働教授」を設置する。
〔4〕第9学年および課外で社会的に有用な労働を組織する。
[寺川智祐・神山正弘]
『G・クラップ著、大橋精夫訳『マルクス主義の教育思想』(1961・お茶の水書房)』▽『大内兵衛・細川嘉六訳『マルクス=エンゲルス全集 第16巻』(1966・大月書店)』▽『技術教育研究会編『総合技術教育と日本の民主教育』(1974・鳩の森書房)』
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