繻子の靴(読み)シュスノクツ(その他表記)Le Soulier de Satin

デジタル大辞泉 「繻子の靴」の意味・読み・例文・類語

しゅすのくつ【繻子の靴】

原題、〈フランスLe Soulier de satinクローデルによる詩劇著者が駐日大使として日本に滞在していた時期に書かれた作品。1924年完成、1929年刊行。副題「あるいは最悪必ずしも定かならず4日間のスペイン芝居」の通り、4部構成の全体劇で、通しで上演すると10時間以上かかる大作。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「繻子の靴」の意味・わかりやすい解説

繻子の靴
しゅすのくつ
Le Soulier de Satin

フランスの詩人、劇作家クローデルの詩劇。四幕構成の全体劇で、日本大使として在任中(1921~25)に書かれ、1929年に出版されたが上演はされず、縮約版がナチス・ドイツ占領下の43年11月、ジャン・ルイ・バロー演出によりコメディ・フランセーズ初演された。

 16世紀末ごろ、スペインの若い武将ドン・ロドリゴ大判事の妻ドナ・プルエーズとのかなわぬ恋が、貞潔心の象徴である繻子の靴の片方聖母に捧(ささ)げたプルエーズに導かれて、ロドリゴが神に献身することで彼岸(ひがん)的に結ばれる、すなわち永生を得る話を主軸に、スペインをはじめアフリカ、アメリカ、東洋と全世界にわたる、それぞれ時を隔てた4日のできごととして壮麗に繰り広げられている。自然的世界と超自然的世界とが一つに融合止揚された魂の一大叙事詩といってよく、クローデルの集大成的な代表的傑作との評判が高い。ここには確かに能の影響が認められる。

渡辺 淳]

『中村真一郎訳「繻子の靴」(『世界文学全集25 世界現代戯曲集』所収・1956・河出書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「繻子の靴」の意味・わかりやすい解説

繻子の靴
しゅすのくつ
Le Soulier de Satin

フランスの詩人ポール・クローデルの詩劇。 1929年刊。 43年にパリ,コメディ・フランセーズで初演。演出 J.-L.バロー,装置 L.クートー,音楽 A.オネゲル。 16世紀末黄金時代のスペイン,「征服者」として新大陸に向うドン・ロドリーグと大判事の妻ドンナ・プルエーズとの恋を中心に,舞台はアフリカ,アメリカ大陸に及び,登場人物も聖者から自然物まで含み,音楽,舞踊,映画などを利用したいわゆる全体演劇で,カトリック精神の世界への伝道の賛歌となっている。

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世界大百科事典(旧版)内の繻子の靴の言及

【クローデル】より

…また老荘思想や能についての考察の延長線上にある《オランダ絵画序説》(1935),美術論集《目は聴くL’œil écoute》(1946)も,優れた造形芸術論であると同時に鋭い文明論である。 しかしクローデル劇が真に認められるようになったのは,43年,J.L.バロー演出による《繻子(しゆす)の靴Le soulier de satin》(1925年東京で完成)の初演以来のことである。《黄金の頭》(これも1959年になって初演)以来の〈宇宙的統一を求める征服者の情念(パッシヨン)の受難曲(パッシヨン)〉と,詩人の実存的危機の劇,つまり自身の体験でもある聖職への意志の挫折と人妻との禁じられた恋を主題とする《真昼に分かつPartage de Midi》(1906。…

※「繻子の靴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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