フランスの詩人、劇作家クローデルの詩劇。四幕構成の全体劇で、日本大使として在任中(1921~25)に書かれ、1929年に出版されたが上演はされず、縮約版がナチス・ドイツ占領下の43年11月、ジャン・ルイ・バロー演出によりコメディ・フランセーズで初演された。
16世紀末ごろ、スペインの若い武将ドン・ロドリゴと大判事の妻ドナ・プルエーズとのかなわぬ恋が、貞潔心の象徴である繻子の靴の片方を聖母に捧(ささ)げたプルエーズに導かれて、ロドリゴが神に献身することで彼岸(ひがん)的に結ばれる、すなわち永生を得る話を主軸に、スペインをはじめアフリカ、アメリカ、東洋と全世界にわたる、それぞれ時を隔てた4日のできごととして壮麗に繰り広げられている。自然的世界と超自然的世界とが一つに融合、止揚された魂の一大叙事詩といってよく、クローデルの集大成的な代表的傑作との評判が高い。ここには確かに能の影響が認められる。
[渡辺 淳]
『中村真一郎訳「繻子の靴」(『世界文学全集25 世界現代戯曲集』所収・1956・河出書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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