アメリカの小説家ヘミングウェイの後期の代表的中編小説。1952年刊。キューバの老漁夫サンチャゴは、84日間の不漁のあと、ひとりメキシコ湾流に遠出し、ついに巨大なマカジキを釣り針にかける。姿を見せぬまま力強く船を引き続ける大魚に、老人は知識と体力の限りを尽くして対抗するうちに、敬意と友愛を抱きさえする。二昼夜にわたる苦闘のすえに銛(もり)を打ち込むが、それは大自然の美と力の化身と孤独な苦闘者との激しい合体の瞬間である。帰途、船べりに縛り付けた大魚をサメが次々に襲う。絶望的な闘いのなかで老人は「打ちのめされても敗れない」人間の尊厳をみせる。老人はキューバ人であるが、本質的には辺境の自然で闘う孤独な男というアメリカ的ヒーローの系譜に属する。文体は簡潔清澄で、また詩情と象徴性に富む。出版後大いに好評を得、ピュリッツァー賞に続き、1954年ノーベル文学賞をもたらした。
[武藤脩二]
『福田恆存訳『老人と海』(新潮文庫)』▽『野崎孝・佐伯彰一他訳『老人と海』(『世界文学全集77』所収・1977・集英社)』
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…その間,短編集《勝者には何もやるな》(1933)での成果,スペイン内乱を描く《誰(た)がために鐘は鳴る》(1940)の商業的成功,そして闘牛と猛獣狩りを扱うノンフィクション《午後の死》(1932)と《アフリカの緑の丘》(1935)の執筆などが特記される。のち,老いた漁師と大魚の神話的な死闘を語る《老人と海》(1952)で再び腕のさえを示した彼は,1954年ノーベル賞を受賞したが,61年猟銃で自殺をとげた。死後《移動祝祭日》(1964)などが出た。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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