大気中における耐酸化性と高温におけるある程度の強度をもつように設計・製造された合金。耐熱性の原理と鉄基合金については〈耐熱鋼〉の項目を参照されたい。耐熱鋼の場合の高温とは500~800℃であるが,金属材料一般で高温というと,それぞれの金属の溶融温度との相対的尺度で考える。軽金属であるアルミニウムやマグネシウムを基本とする軽合金耐熱材料は250~450℃程度の温度で使用される。軽合金耐熱材料はジェットエンジンなどの圧縮機,内燃機関のピストン材,原子炉材用被覆材などに用いられる。代表的なマグネシウム合金にはトリウム3%,ジルコニウム0.7%が含まれている。アルミニウム合金のジュラルミンもある程度の耐熱性をもつことが知られている。アルミニウム粉を焼結したSAP(sintered alminium powder)は,アルミナAl2O3が素地金属中に分散することによって優れた高温強度を発揮する。チタンおよびチタン合金は500℃程度までの温度で合金鋼に匹敵する強度を発揮し,航空機材料として欠くことのできない材料である。これらは耐熱鋼の使用温度範囲以下で用いられる耐熱合金である。耐熱鋼はオーステナイト系耐熱鋼でも800℃以上での使用は困難になる場合が多いので,これ以上の温度で使用するのを目的として研究,開発されたものに超合金superalloy(スーパーアロイともいう)と呼ばれるニッケル基合金,コバルト基合金,クロム基合金がある。素地の構造中での金属原子の移動速度はその材料の融点が高いほど小さいので,モリブデン,タングステン,タンタル,ニオブなどの合金が高温強度を上げる目的で検討,開発されてきた。しかしニッケル,コバルト,クロムを基本とする合金と比較してどうしても耐酸化性に難点があるので,高温にさらされる時間が短く,その間にかなりの強度が要求されるような用途での使用に限られている。ニッケル基耐熱合金はオーステナイト系耐熱鋼を発展させたものであり,おもな用途はコバルト基合金の用途と同様,ガスタービン翼やジェットエンジン回転羽根材である。800~900℃の間の使用温度に耐えるものがある。ニッケル基合金の強度を大きくするのに有効な元素はコバルトであり,表面の耐酸化性を向上させるのに有効な元素はクロムである。コバルトとニッケルの成分量が逆転してコバルトをより多く含むようになった耐熱合金がコバルト基耐熱合金である。900℃に達する高温では,材料のクリープ変形に結晶粒間の粒界のすべりが大きく寄与するようになる。したがって結晶粒が細かいほど高温強度が低下する。そこで鋳造でタービンの翼やジェットエンジンの羽根を製造するとき,全体が一つの結晶,いわゆるモノクリスタル(単結晶)になるようにして,粒界すべりを防止して高温強度を増大させる方法も開発された。耐熱鋼の場合の素地の分散強化に有効である炭化物の代りに,ニッケルとチタンまたはニッケルとアルミニウムの金属間化合物Ni3Ti,Ni3Alを析出分散させて,初期変形によって生じた転位線を保持して高温強度を高めている。ニッケル基耐熱合金の商品名として有名なのはニモニックNimonic,インコネルInconelなど社名を冠したものが多い。クロム基耐熱合金はクロムを主体にし,モリブデンと鉄との合金であって,高真空下で鋳造して製造される。今後の耐熱合金また耐熱材料としては,先にも述べた高融点金属を基本とする合金の耐酸化性を改善することによって,1300℃前後の温度で使用しうる合金が開発される可能性がある。耐熱材料には,耐熱合金,耐熱鋼のほかにサーメットと呼ばれる材料がある。これは金属と,酸化物,炭化物,窒化物,ホウ化物,金属間化合物などの高温で安定で強度の高い物質とを焼結して製造される複合材料である。また構造用ファインセラミックスと呼ばれる材料もこの部類に属する。これらの物質は原子間の結合がイオン結合または共有結合なので,異方位の結晶間の結合力が弱く,焼結のためには締結の役割を果たす添加物を加えなければならない。たとえば窒化ケイ素に対しては酸化イットリウムのような物質を加えて粒間の結合力を増し,ある程度の応力緩和機構を導入して耐衝撃性を向上させなければ実用化しにくい。
執筆者:木原 諄二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
高温で使用するための合金。金属は高温になると強度が低下し、また酸化など雰囲気との化学反応が速やかに進行するようになる。これに対処するために種々の合金元素が添加される。アルミニウム合金の場合はニッケルを2.5%以下添加した合金(Y合金、ローエックスなど)、銅合金ではクロムを0.85%またはジルコニウムを0.15%添加したものなどがあるが、耐熱合金の代表は、鉄にクロムを加えて耐酸化性を増し、タングステン、モリブデン、バナジウム、チタンなどを加えて高温強度を高めた耐熱鋼である。さらに高温で使用するものにニッケルやコバルトを基本とする超耐熱合金(超合金)があり、1000℃以上で使用するものとしてはモリブデンやタングステンのような高融点金属の合金がある。高温強度を高めるために金属中に酸化物を微細に分散させた酸化物分散強化型合金、セラミックス粉末を少量の金属で固めたサーメット、共晶組成の合金を一端から順次固化させて組織を一方向にそろえた一方向凝固合金、セラミックス繊維を金属で固めた繊維強化型複合材料など、各種の耐熱合金の研究が行われている。
[須藤 一]
高温度で使用することを目的として,高温で十分な強度と耐酸化性,耐食性とを備えるようにつくられた一連の合金.たとえば,ガスタービンは約700 ℃ 以上,ジェットエンジンでは1000 ℃ 以上というような高温度で,しかも大きな応力あるいははげしい腐食性環境のもとで運転されることが多いため,それらの構成材料として耐熱鋼のCrやNi,Coなどの添加量を増し,さらにはNiやCo自体を主成分としてMo,W,Nb,Ti,Al,Ta,C,B,Zr,Hf,Reなど種々の元素を単独にあるいは多数組み合わせて添加した耐熱合金が種々開発され使用されている.代表的なものとしては,Fe基ないしFe-Ni基のTimken 16-25-6,A-286,N-155,Incoloy系などの各種合金,Ni基ではCMSX系,Inconel系,Nimonic系,Hastelloy系,René系などの各種合金,Co基ではS-816,X-40,L-605などがあげられる.これらのうち,とくに高温強度の大きい合金は鍛造による成形加工が困難なため,精密鋳造合金や粉末冶金による焼結合金の形で製造される.なお,Mo,W,Nb,Taなどの高融点金属を主成分とする耐熱合金も発展しつつあるが,これらは耐火合金(refractory alloy)とよばれることが多い.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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