高融点金属材料(読み)こうゆうてんきんぞくざいりょう(英語表記)refractory metal

改訂新版 世界大百科事典 「高融点金属材料」の意味・わかりやすい解説

高融点金属材料 (こうゆうてんきんぞくざいりょう)
refractory metal

融点の高い金属材料,とくにタングステンタンタルモリブデンニオブと,これらの合金をさすことが多い。元素を融点の順に並べてみると,タングステン(3387℃),レニウム(3180℃),タンタル(2996℃),オスミウム(2700℃),モリブデン(2610℃),ニオブ(2468℃),イリジウム(2447℃),ホウ素(2300℃),ルテニウム(2250℃),ハフニウム(2150℃)となる。ここでホウ素は金属ではないが,あとは金属で,このように高融点のものがあるというのは金属元素の一つの特徴である。レニウム,オスミウム,イリジウム,ルテニウムは貴金属であって,白金族元素に属し,白金,金と似た性質がある。ハフニウムはジルコニウムとよく似ていて,それといっしょに扱われることが多い。残りがタングステンなどの4金属である。これらはいずれも体心立方晶の金属であって,似た性質をもっている。融点が高く高温で使用できる材料であるが,一方では酸化されやすく,不純物を十分に取り除かないともろい。また,加工の難しいことが多く,これらの材料の選択には,融点や高温での強度などの性質よりも加工性に重点をおくことが多い。また,いろいろの条件のもとで優れた耐食性を示すのも,これらの材料の特徴である。いずれにしても,とくに高温での使用をめざすのであれば,高融点の材料を選ぶことになる。ふつうに耐熱合金といわれるものはニッケルあるいはコバルトの合金であって,約1100℃まで使用できるが,1300℃以上の使用に耐えるのがここで扱っている材料である。また,セラミックス耐熱性がよいが,高温での強さと粘さをかねそなえ,かなりの範囲の加工が可能な材料は金属である。融点が高いことから製造は難しいが,加工できる材料の製造法と加工法の開発によって,これらの材料の利用が拡大してきた。

 20世紀の初めにアメリカのクーリッジWilliam David Coolidge(1873-1975)がタングステン線の製造に成功し,これが電球のフィラメントに応用されて照明に革命をもたらした。融点が高く溶解が難しいので,タングステンの粉末を固め,高温の水素雰囲気中で焼結し,細い線に加工できる材料の製造に成功した。この粉末冶金法はその後改良されて,現在に至るまでタングステンとモリブデンの製造に利用されている。一方,溶解法としては,アークをとばしてその熱でとかすアーク溶解,高電圧で加速した電子をぶつけてとかす電子ビーム溶解が開発され,かなり大きな塊で,しかもその後加工の可能なものをとかすことができるようになっている。とかす容器には外部を水冷した銅製のるつぼが使われる。電子ビーム溶解では,とくに真空中で高温でとかすため不純物が蒸発して除かれる。タンタルとニオブはこれらの方法で溶解されることが多く,またタングステンとモリブデンにも応用されている。

 高融点金属の用途は,初めは電球のフィラメント,電子管のグリッド,発熱体,電気接点などに限られていたが,おもに宇宙・航空機器への応用に関する研究開発が行われ,その技術を応用して,原子力工業,電子工業,化学工業への応用が広がりつつある。

 タングステンは融点が最も高いが,室温ではもろく,耐酸化性が悪く,重く,そして加工性が悪い。電球のフィラメントに使用されるのはドープタングステンといって,Al2O3,SiO2,K2Oを少量添加したもので,これによって再結晶組成が改善され,線としての性能が向上した。純タングステンはX線管球の電極とされ,酸化トリウムThO2を添加したものはトリエーテッドタングステンと呼ばれ,電子放出能がよく,電子管に使用される。レニウムを入れると延性が改善され,この線は3000℃まで使用できる熱電対となる。粉末冶金法で作ったタングステンと銀あるいは銅の合金は大容量用の電気接点として重要である。

 モリブデンは,タングステンと同様の電子管材料としての用途もあるが,タングステンよりも加工性がよく,大型成形品を作ることができるので,高温での構造材として宇宙・航空用などの用途が広い。欠点は,酸化物が気化しやすく,高温での使用にあたっては酸化を防がなければならないことである。そこで,ケイ素化合物の被覆などが開発されている。この方法はニオブあるいはタンタルの合金にも応用されている。

 タンタルは加工性がよく室温で深絞りなど通常の加工を行うことができる。電解コンデンサーとして最も多く使用されているのは,この酸化被膜が優れた誘電性質を示すことと,コンデンサー製造の細かい加工が容易なことによっている。また,白金と並び称される耐食性をもち,化学工業用の耐食材料としても重要である。耐熱材料としては酸化されやすいが,高温になる真空炉の構造材などとして用いられる。

 ニオブもタンタルと同じく加工性がよい。宇宙開発では月着陸船のロケットノズルにニオブ合金が使用された。耐食性の点から化学工業にも重要である。また,ニオブ・チタン合金は優れた超電導材料である。

 以上用途例についてはいくつかの例をあげたにすぎない。高融点材料は極限を追求する技術にとってなくてはならないものであり,耐熱性と耐食性の点から応用が広がっていくであろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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