幼子イエスに最も近い親族。ヨセフ,マリアとイエスの3人(父,母,子)で構成される。《マタイによる福音書》2章13~23節では聖家族の〈エジプト逃避〉について,《ルカによる福音書》2章41~52節ではエジプトからの帰還後,ガリラヤ地方のナザレで,イエスが成人に達するまでの聖家族の様子について短く述べられている。
美術主題としては,15,16世紀に入って一般化した。美術表現では,食事時の聖家族(ホッサールト,1555ころ,など),大工ヨセフを手伝うイエス(木彫,1470ころ,ユトレヒト大司教館美術館)など,聖家族の日常のエピソードが種々描かれる。外典書の影響をうけて,エリザベツElisabethとその子バプテスマのヨハネが付け加えられる例もある(ラファエロ《カニジアーニの聖母》1507ころ,など)。外典書によると,〈エジプト逃避〉からの帰路,聖家族はエリザベツの家に立ち寄り,イエスとヨハネの2人の子どもは幾日かをともに過ごしたが,ヨハネはすでにイエスを敬い接したことが記されている。また,ヨセフ,マリア,イエスの3者は,〈聖三位一体(天上の三位一体)〉に対する〈地上の三位一体trinitas terrestris〉とみなされ,二つの三位一体がしばしば重複して表現された(ムリーリョなど)。
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幼児イエスとその母マリア、養父ヨセフの家族。『新約聖書』によれば、聖霊によってマリアはイエスを懐胎したが、ヨセフは夢に現れた天使の勧めに従いマリアを妻として迎え入れた。そのころローマ皇帝が戸籍登録の勅令を出したので、ヨセフはマリアを連れて本籍地ベツレヘムに行き、そこでマリアは初子(ういご)イエスを産んだ。ヘロデ王がこの幼児の命をねらったので、ヨセフはマリアとイエスを連れてエジプトへ逃れた。ヘロデの死後ガリラヤのナザレの町に行き、そこで神の愛に満ちた平和な家庭を築いた。キリスト教信者はこれを聖家族とよび、すべての家族生活の模範と仰ぐ。なおカトリック教会では、主の御降誕祭(クリスマス)後の最初の日曜日を「聖家族の祝日」としている。
[門脇佳吉]
キリスト教美術の図像の一つ。幼児イエスと母マリア、および養父ヨセフの慈愛に満ちた家族図。ヨセフのかわりにマリアの母アンナを加えた表現も聖家族図であるが、この場合は家系図の要素が強い。いずれにせよ、幼児イエスを中心に3人物像によって構成され、地上の聖三位(さんみ)一体を象徴する。この表現形式は14世紀に登場するが、とくに15、16世紀にイタリアをはじめ、ドイツ、スペインなどで流行した。聖アンナのいる聖家族図では、レオナルド・ダ・ビンチの『聖アンナと聖母子』(ルーブル美術館)がもっとも有名である。ヨセフのいる聖家族図としては「エジプト逃避」の途中の休息の場面も含まれるが、家庭におけるだんらんの表現が一般的で、ミケランジェロやラファエッロなどの作品がある。また、聖エリザベトやその幼児バプテスマのヨハネを加える場合もある。
[名取四郎]
堀辰雄(たつお)の短編小説。1930年(昭和5)11月号の『改造』に発表。32年江川書房刊。「死があたかも一つの季節を開いたかのやうだつた」という文を冒頭に置き、九鬼(くき)という人物の「突然の死」から始まる、彼とつながる3人の男女(河野扁理(へんり)、細木(さいき)夫人、その娘絹子)の愛をめぐる関係を描いた小説。ラディゲから学んだ登場人物の心理の起伏を明晰(めいせき)に解剖する手法によって、昭和初年代に流行した新心理主義文学の一翼を担い、堀の文壇出世作となったが、同時に「死を自分の生の裏側にいきいき」と感じながら自己確立を遂げる青年扁理の姿には、その師芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の死を含む己の人生上の危機を越えようとする堀の意志の投影が認められる。
[大橋毅彦]
『『燃ゆる頬・聖家族』(新潮文庫)』
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…高校時代から芥川竜之介の知遇を得,また新しいフランス文学を意欲的に吸収した。30年,芥川の死やみずからの恋愛体験を素材にラディゲ風の心理分析を施した《聖家族》で文壇に登場し,のちプルーストやリルケに学んで《美しい村》(1933‐34),《風立ちぬ》(1936‐38)を発表,作家的位置を確かにした。このころから日本古典に親しみ,《かげろふの日記》(1937‐39),エッセー集《大和路・信濃路》(1943‐44)を発表する一方,代表作《菜穂子》(1941)を書き上げた。…
…比較的単純な刳型をもつ木製鍍金のもので,額縁自体に署名と1433年10月21日の日付が彫られている。フィレンツェの例としては,ミケランジェロ作《聖家族》(1480年ころ,ウフィツィ美術館)の額縁が名高い。直径約120cmの円形画面をとりまく円環状のもので,ミケランジェロのデザインにより,ドメニコ・デル・タッソが製作した。…
※「聖家族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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