肘部管症候群(読み)ちゅうぶかんしょうこうぐん(英語表記)Cubital tunnel syndrome

六訂版 家庭医学大全科 「肘部管症候群」の解説

肘部管症候群
ちゅうぶかんしょうこうぐん
Cubital tunnel syndrome
(運動器系の病気(外傷を含む))

どんな病気か

 小指薬指の感覚と、指を伸ばしたり閉じたり開いたりする手指筋肉を支配している尺骨(しゃっこつ)神経が、肘の内側の肘部管というトンネル圧迫や引き延ばしを受けて発生する神経麻痺です。

原因は何か

 肘の内側の上腕骨内上顆(じょうわんこつないじょうか)というくるぶしの後ろに、骨と靭帯(じんたい)で形成された肘部管というトンネルがあります。ここを尺骨神経が通ります。トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な圧迫や引き延ばしが加わると、容易に神経麻痺が発生します。

 圧迫の原因には、トンネルを構成する骨が隆起した骨棘(こつきょく)や、靭帯肥厚、トンネル内外にできたガングリオン嚢腫(のうしゅ)などがあります。神経引き延ばしの原因には、小児期の骨折によって生じた外反肘(がいはんちゅう)(肘を伸展させると過剰に外側に反る変形)などがあります。

症状の現れ方

 麻痺の進行により症状が異なります。初期は小指と薬指の小指側にしびれ感が生じます。麻痺が進行するにつれて手の筋肉がやせてきたり、小指と薬指がまっすぐに伸びない鉤爪(かぎづめ)変型(あるいは鷲手変形)が起こります。筋力が低下すると、指を開いたり閉じたりする運動ができなくなります。握力も低下します。

検査と診断

 肘の内側のくるぶしの後ろをたたくと、痛みが指先にひびくティネル徴候がみられます。紙を患者さんの親指と人差し指の間に挟んで検者が引っぱると、親指を曲げないと引き抜かれてしまうフロメンテストが陽性になります。

 電気を用いた検査では、神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が長くなります。知覚テスターという機器で感覚を調べると、感覚が鈍くなっています。

 首の病気による神経の圧迫や、糖尿病神経障害などとの鑑別が必要です。

治療の方法

 初期でしびれや痛みが軽症の場合は、肘を安静にして、消炎鎮痛薬やビタミンB剤を内服します。これらの保存療法が効かない場合や、筋肉にやせ細りがある場合は手術を行います。

 手術の方法は靭帯を切ってトンネルを開き、神経の圧迫を取り除きます。ガングリオン嚢腫があれば切除します。神経の緊張が強い場合は、内上顆というくるぶしを削ったり、神経を前方に移動させます。外反肘変形により神経が引き延ばされている場合は、矯正(きょうせい)骨切り術といって、骨を切って変形を矯正し、神経麻痺を治すこともあります。

 肘部管は非常に狭いので手術が必要になることが多く、筋肉にやせ細りが出る前に手術をすると、予後は良好です。

病気に気づいたらどうする

 小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側のくるぶしの後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科に受診してください。手指の筋肉にやせ細りがあれば急を要します。

関連項目

 末梢神経が圧迫される病気総論上腕骨内顆・外顆骨折

鈴木 克侍

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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