日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝性昏睡」の意味・わかりやすい解説
肝性昏睡
かんせいこんすい
重篤な急性または慢性の肝不全によっておこる意識障害をいう。急性の肝疾患では劇症肝炎による場合が多く、予後不良である。しかし慢性の肝疾患、たとえば肝硬変による場合はかならずしも予後は悪くなく、覚醒(かくせい)して以前の意識状態に戻ることも少なくない。
肝性昏睡は、意識障害の程度によって4~5段階に分けられる。第1度は、ほとんど気づかれない程度の精神活動の一般的低下で、進行してからのちにこの段階の症状が出ていたことに思い当たる場合が多い。第2度では、傾眠傾向が現れ、見当識の低下による異常行動がみられる。第3度では、さらに進行して、幻覚があったりする。患者はほとんど1日中寝ているようになる。しかし、大声で呼んだりすると反応する。この段階までにみられる意識障害発作に対して、肝性脳症とよぶことがある。第4度は、いわゆる昏睡状態に陥り、痛み刺激にわずかに反応する程度で、第5度は、深い昏睡に入り、痛み刺激にもまったく反応しない状態をさす。
原因は、急性肝不全の場合は、脳機能維持のために必要な肝臓から分泌される肝性因子の欠乏と、肝臓の解毒機能の低下により中毒性物質が血中に増え、脳機能が低下するためである。一方、慢性肝不全の場合は、肝内や肝外に門脈血流の副血行路(短絡またはシャントshunt)を生じ、そのために腸管内で生じた毒性物質(アンモニアなど)が肝臓の解毒作用を受けずに大循環に入り、脳の機能が障害されるという説が有力である。
治療としては、急性肝不全に対しては血漿(けっしょう)交換療法が行われている。慢性肝不全に対しては、誘因(消化管出血など)を除去し、アンモニア発生がおこる消化管の清浄化や分枝鎖アミノ酸製剤を用いる。
[太田康幸・恩地森一]