肝性脳症(読み)カンセイノウショウ

内科学 第10版の解説

肝性脳症(肝疾患に伴う神経系障害)

(1)肝性脳症(hepatic encephalopathy)
概念
 高度の肝機能異常に伴う代謝異常によって生じる意識障害などの精神神経症状で,大きく急性型と慢性型に分類される.【⇨9-1-4)も参照】
臨床症状
 急性型は劇症肝炎に代表され,急性(8週以内)に広範囲の肝細胞が壊死に陥る急性肝不全に伴って認める神経症状である.倦怠感,食欲不振などの急性肝炎症状で発症し,黄疸,頻脈,血圧低下などの肝不全症状とともに,意識障害を中心として,羽ばたき振戦,構音障害,錐体外路徴候,錐体路徴候,運動失調なども認める.慢性型は肝硬変などの慢性肝疾患に伴って認める神経症状で,症状の変動や再燃がしばしばみられる.おもな症状は意識障害,精神症状(初期には記銘力障害,見当識障害,感情の易変容性,経過が長くなると認知症や人格障害),運動障害,羽ばたき振戦などである.
病因
 慢性型では腸管内で生じるアンモニアなどの神経毒作用物質が肝で解毒されずにシャントを通って大循環を経て直接脳内に達する.アンモニアが肝性脳症を引き起こす原因としてはTCA回路を介するATP産生低下,脳内セロトニン系への関与,アンモニア代謝で産生されるグルタミンの関与などがいわれているが不明な点も多い.アンモニア以外のメルカプトン,芳香族アミノ酸などの関与も示す報告もあるが詳細は不明である.急性型では高アンモニア血症に加えて,脳浮腫の関与が剖検例の検討や画像診断からいわれている.
診断
 肝不全を示す血液データ,血中アンモニアの高値,分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸比(Fisher比)の低下,脳波所見,臨床症状から診断する.脳波は肝性脳症の重症度をよく反映し,初期にはα波の徐波化,不規則化,その後5~7 Hzの高振幅θ波が前頭部から後頭にかけて全体に広がる.前昏睡期になると特異的な所見である三相波(図15-12-1)が前頭優位,左右対称性に出現するが,昏睡期になると消失する.また,脳MRIのT1強調画像にて淡蒼球を中心にして大脳基底核に高信号域を認める.
治療
 急性型では急性肝不全の治療とともに,脳浮腫の治療としてマンニトールやグリセロールの投与を行う.慢性型では血中アンモニア上昇の誘因(蛋白の過剰摂取,便秘,消化管出血)の除去,ラクツロースまたはラクチトールの経口投与を行う.それでもアンモニアの低下をみない場合はネオマイシン,ポリミキシンBなどの抗菌薬の投与を行う.分岐鎖アミノ酸製剤は意識覚醒効果や脳症の予防に有効である.[中里雅光]
■文献
Bismuth M, Funakoshi N, et al: Hepatic encephalopathy: from pathophysiology to therapeutic management. Eur J Gastroenterol Hepatol, 23: 8-22, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

世界大百科事典内の肝性脳症の言及

【肝不全】より

…後者は,進行した肝硬変肝臓癌,肝臓内に長期間持続して胆汁が鬱滞(うつたい)することなどによって生じ,高度の肝臓萎縮と繊維化,およびその結果生じる肝血流障害,腫瘍性変化などが直接の原因となる。ともに症状として,全身消耗,皮膚や性器の異常,感染に対する抵抗力の低下,循環障害などを伴うが,黄疸の増強,腹水,出血傾向,肝性脳症と,高度の栄養障害が臨床的には重大な問題となる。
[肝臓の機能低下による種々の症状]
 (1)黄疸 黄色色素のビリルビンが体内に蓄積して皮膚などを黄色に染める現象を黄疸という。…

【振戦】より

…ウィルソン病,多発性硬化症,中脳・小脳疾患で認められる。肝性脳症では,横に広げた手がちょうど鳥の羽ばたきのように瞬時落下する羽ばたき振戦も知られている。【水沢 英洋】。…

※「肝性脳症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

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