肝臓移植(読み)カンゾウイショク(その他表記)liver transplantation

デジタル大辞泉 「肝臓移植」の意味・読み・例文・類語

かんぞう‐いしょく〔カンザウ‐〕【肝臓移植】

肝移植

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肝臓移植」の意味・わかりやすい解説

肝臓移植
かんぞういしょく
liver transplantation

臓器移植の一つ。一個人から肝臓を摘出し、他人にそれを移すことをいう。肝移植ともいう。肝臓を提供する人をドナーdonor(提供者)、肝臓を受ける患者レシピエントrecipient(受容者)という。

[中村 宏]

肝臓移植の種類

肝臓移植には次の2種類がある。

(1)死体肝移植 脳死者から肝臓を摘出し、重篤な肝疾患のある患者にそれを移植することをいう。

(2)生体部分肝移植 患者の両親、兄弟、姉妹、子どもなどの血縁者、または配偶者から、自発的な肝臓提供の意思に基づいて肝臓の一部を切除した後、それを患者に移植することをいう。略して、生体肝移植ともいう。

[中村 宏]

適応疾患と肝移植の方法

肝移植以外には救命手段がない、肝移植の適応となる肝疾患は次のような場合である。

(1)小児 先天性肝・胆道疾患や先天性代謝異常症など。後者のなかには、肝臓が特定の酵素欠損のため結果的に死に至るα1-アンチトリプシン欠損症などがある。

(2)成人 劇症肝炎原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、肝硬変(肝炎ウイルス性、二次性胆汁性、アルコール性)など。ただしB型肝炎、肝硬変の患者に肝移植を行っても、移植した肝臓に肝硬変、肝不全が再発することが多い。

 手術手技は、下大静脈を残して病的自己肝を全摘し、その部位に移植する肝臓を置いて(同所性全肝移植)、肝臓に入ってくる門脈肝動脈とを再建し、肝臓から出ていく肝静脈も再建し、最後に胆管と腸とを吻合(ふんごう)する。ドナー不足を補うために、一つの肝臓を二つに分割して2人のレシピエントに移植することがあり、これを二分割肝移植という。また1人のレシピエントが、2人のドナーから、肝臓の提供を受けることもある(dual graft)。

 患者の選択は、肝移植対象疾患、医学的救急度、血液型、待機期間に基づいて行われる。肝移植では、組織適合性検査であるHLA型の一致数と成績とは無関係である。肝移植後の免疫抑制法としては、タクロリムス(製品名「プログラフ」)、シクロスポリンサイクロスポリン、製品名「ネオーラル」)、ステロイドが一般的に用いられている。

[中村 宏]

ドミノ肝移植

ドミノ肝移植という特殊な移植法があるが、これはドミノ倒しのように、肝移植を受ける患者から摘出された肝臓をほかの肝不全末期の患者に移植する方法である。1995年にポルトガルで最初に行われて以来、世界では500例以上が行われ、日本でも28例行われている。アミロイド・ポリニューロパシー(FAP)という難病の患者が肝移植を受けるときに行われる。FAPは繊維タンパク質を主成分とするアミロイドが、臓器や組織などに沈着して機能障害を引き起こす疾患で、肝臓が異常なタンパク質を生成する。アミロイドの前駆物質が20~30年間でアミロイドに変形してほかの臓器に沈着し、心臓や腎臓の機能に障害をきたし、発症後10年前後で死亡する。早期に肝移植をすれば病状の進行を阻止できる。異常なタンパク質を生成することを除けば、肝機能は正常なので、そのような肝臓でも肝不全末期の患者に移植すれば延命効果が得られるが、20~30年後にFAPが発症する可能性もあり、欧米諸国では肝臓の提供を受ける患者を60歳以上に限定しているところが多い。1999年(平成11)7月に京都大学で日本最初のドミノ肝移植が実施された。一つの肝臓を分割して2人の患者に移植し、世界初のドミノ分割肝移植となった。

[中村 宏]

肝臓移植の歴史と今後の課題

1963年、アメリカのトーマス・スターツルThomas E. Starzl(1926―2017)らが世界で初めて臨床的に死体肝移植を行ったが失敗した。1967年ふたたびスターツルらが小児に死体肝移植を行い、400日という長期生存例を得たのが初成功例と考えられる。生体部分肝移植は1987年にブラジルで初めて行われたが、世界的には脳死者からの死体肝移植が主流となっている。日本では脳死者からの臓器提供がむずかしいため、生体部分肝移植という世界の趨勢(すうせい)とは異なった方法がとられ、1989年(平成1)11月に島根医科大学(2003年に島根大学と統合)の永末直文(ながすえなおふみ)(1942―2024)らが行った日本初の症例以来、2006年(平成18)末までに約4300回施行されている。これに対して死体肝移植は38回にすぎない。

 肝臓は再生能力が強く、肝臓を切除した後、肝機能は約2週間で回復し、2~3か月で元の大きさと同程度になるといわれている。したがって生体部分肝移植でドナーに与える危険性は低く、また肝臓外科の進歩した今日では手術的合併症の危険性も低い。とはいえ、生体肝ドナーの死亡が、ヨーロッパでは0.9%、アメリカでは0.3%、日本でも1例報告されている。健常人にメスを加えるよりは世界的に広く行われている死体肝移植のほうが望ましく、生体部分肝移植は脳死移植が普及するまでの一時的手段との指摘もある。死体肝移植は世界では年間約8300回行われている。日本でも1997年に成立した臓器移植法に基づく脳死患者からの死体肝移植が1999年2月に初めて行われ、今後徐々に症例数が増加していくことが期待されている。

 肝移植の成績は、手術手技の確立、肝保存法の進歩、免疫抑制剤のシクロスポリンやタクロリムスの出現によって、生存率は生体肝移植では1年82%、5年76%、死体肝移植では1年74%、5年67%と向上してきている(日本肝移植研究会調べ)。今後の問題としては、死体肝移植が生体部分肝移植にとってかわるように、臓器提供意思表示カード(ドナーカード)を普及させ、ドナー病院数を拡大させることが重要である。

[中村 宏]

『市田文弘監修、谷川久一・市田隆文編『肝移植と肝病態――本邦成人の肝移植症例からみた肝病態の解明』(1997・日本メディカルセンター)』『辻井正編集顧問、沖田極・神代正道・小林健一・二川俊二編『肝移植のup to date』(2001・診断と治療社)』『笠原群生著『こどもの肝移植――「いのち」を救うタイミング』(2007・診断と治療社)』『後藤正治著『生体肝移植――京大チームの挑戦』(岩波新書)』

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知恵蔵 「肝臓移植」の解説

肝臓移植

肝移植」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の肝臓移植の言及

【臓器移植】より

…今後に残された問題である。
[各種の臓器移植]
 肝臓移植は,肝硬変,先天性胆管異常,肝臓癌等に行われている。1995年までに5万例の報告があり,シクロスポリンの使用で成績がよくなっている。…

※「肝臓移植」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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