親鸞の後継者で本願寺発展の基礎を開いた第3世覚如(1270-1351)の伝記を描いた絵巻。西本願寺所蔵。《慕帰絵詞》と題したのは,上人の帰寂(入寂)を恋い慕うゆえであることが,冒頭の詞書に述べられている。1351年(正平6・観応2)の上人没後,ただちに次子慈俊によって詞書がつくられ,絵もほどなく完成したものと思われる。全10巻のうち第1,7両巻ははやくに失われ,1482年(文明14)詞書を飛鳥井雅康(あすかいまさやす),絵を藤原久信が補作した。このとき各巻末に雅康が記したところによれば,第2,5,6,8巻は藤原隆章が,第3,4,9,10巻は藤原隆昌が描いたという。このように本絵巻は制作年代,作者を確認しうる基準作として,また1世紀以上へだたった二つの画風を含むなど,絵画史的にも重要な作例である。隆章,隆昌は14世紀中ごろ相次いで京都祇園社の大絵師職に補任されているところから,近親関係にあった当時の第一流の画師とみなされよう。ともに《春日権現験記》を描いた14世紀初頭の宮廷絵所預(えどころあずかり)高階隆兼の画風を受け継いで,本格的なやまと絵画法によるすぐれた表現力をみせ,当時の僧俗の風俗や自然景を生彩のある筆致で描き出している。隆章筆第6巻では大観的な松島の景がのびやかに描かれ,隆昌筆第9巻では天橋立図が細やかな筆致で描かれるなど,両者の個性的画風もうかがえる。また室内の屛風,障子によく画中画を描いており,とりわけ第1巻では,金碧花鳥屛風がみられるなど,失われた室町時代障屛画の様相を垣間見せてくれる。
執筆者:田口 栄一
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西本願寺3世覚如上人(かくにょしょうにん)の伝記を叙した南北朝時代の絵巻。覚如の子慈俊(じしゅん)の撰(せん)になり、上人の帰寂(きじゃく)を慕う意味でこの名がつけられた。詞書(ことばがき)は三条公忠(きんただ)ら数人の執筆、絵は藤原隆昌(たかまさ)・隆章(たかあき)の筆で、1351年(正平6・観応2)の制作。10巻からなるが、第1、7巻は後世に紛失し、1482年(文明14)に飛鳥井雅康(あすかいまさやす)が詞、藤原久信が絵を補作している。初めの巻の絵は伝統的な宮廷絵所の様式を伝え、南北朝時代大和(やまと)絵の典型を示す。補作2巻を含め、画中に日常生活の描写が随所にみられ、当時の生活を知るうえの資料としても貴重である。京都・西本願寺蔵。重要文化財。
[村重 寧]
『小松茂美編『続日本絵巻大成4 慕帰絵詞』(1985・中央公論社)』▽『真保亨編『日本の美術187 慕帰絵詞』(1981・至文堂)』
親鸞の曾孫覚如(かくにょ)の伝記を記す絵巻。覚如が没した1351年(観応2・正平6)のうちに,門弟乗専の発意により制作された。全10巻だが,1巻と7巻は1482年(文明14)の補作。絵は藤原隆章と藤原隆昌,詞書(ことばがき)は三条公忠・一条実材などが担当。補作2巻分の絵は藤原久信,詞書は飛鳥井雅康(あすかいまさやす)。建物の細部や襖・屏風などの画中画,調度品や器物などの描写が念入りで,歴史資料としても注目される。隆章・隆昌の絵には,高階(たかしな)隆兼の画風の継承がみられる。縦32cm,横各巻812~1644cm。西本願寺蔵。重文。
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