腎臓損傷(読み)じんぞうそんしょう(英語表記)Renal Injury

六訂版 家庭医学大全科 「腎臓損傷」の解説

腎臓損傷
じんぞうそんしょう
Renal injury
(外傷)

どんな外傷か

 腎臓後腹膜腔(こうふくまくくう)に位置し、両下部肋骨骨盤、後側方は厚い筋肉群により囲まれているため、いずれの方向からの外力によっても損傷を受けにくい臓器です。

 かつては、腎臓は2つ存在することから安易に腎臓摘出術が行われていましたが、今日では片側の腎臓の損傷であってもできるだけ腎臓を温存する治療法が選択されるようになってきています。

原因は何か

 日本では、ほかの臓器と同様に刺創(しそう)銃創(じゅうそう)による損傷はまれであり、転落や墜落時の後方からの外力によって損傷を受けることが多くなっています。したがって、後方の下部肋骨骨折や腸骨骨折を合併する頻度が高くなっています。

症状の現れ方

 受傷直後から腰背部痛と肉眼でもわかる血尿が認められます。後腹膜腔への出血が増えることにより痛みは激痛となり、血圧は低下します。

検査と診断

 受傷機転(原因)と症状により、容易に腎臓損傷が疑われます。

 造影CTにより腎臓損傷の形態学的異常、腎臓周囲の出血や尿漏れの程度を把握することができます。造影CTにより造影剤の漏れがみられる時や尿漏れがみられる時、あるいは片側の腎臓がまったく造影されない時には、血管の撮影を行います。

治療の方法

 肉眼でもわかる血尿が軽く、血圧が安定している時には経過観察とします。

 輸液により血圧が安定するならば、造影CT検査を行います。造影剤の漏れがみられる時には、患者さんを血管撮影室に移して、血管造影を行います。造影剤の漏れがみられる時には、その動脈コイルなどで詰めて止血します。

 輸液によっても血圧が安定しない時は、腎臓動脈か腎臓静脈の本幹の損傷であり、緊急手術が必要になります。

 たとえ血圧が安定していたとしても、片側の腎臓がまったく造影されない時や腎盂尿管(じんうにょうかん)移行部の損傷の場合は、緊急手術が必要になります。

葛西 猛

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「腎臓損傷」の解説

じんぞうそんしょう【腎臓損傷 Renal Injury】

[どんな病気か]
 腎臓は、外力から保護されやすい位置にあるため、傷が体外に開いた(開放性)損傷はおこりにくいものです。
 腎臓損傷は、交通事故や労働災害などによっておこるもので、肝臓など他の臓器の損傷をともなうこともまれではありません。
 損傷の程度によって、挫傷(ざしょう)(打撲(だぼく)や被膜下血腫(ひまくかけっしゅ))、裂傷(れっしょう)(亀裂きれつ))、断裂傷(だんれつしょう)(破裂(はれつ))、腎茎損傷(じんけいそんしょう)(腎臓のおもな動静脈が切れる)の4段階に分けられます。
[原因]
 腎臓損傷のほとんどは、オートバイに乗っているときの交通事故や、高いところから転落するなどの労働災害、けんか・スポーツによる外傷などの外力によって、肋骨(ろっこつ)や脊椎(せきつい)などが圧迫され、その圧力でおこります。
[症状]
 程度の差はありますが、ほとんどの症例は一時的に外傷によるショック状態をおこします。ショック状態が長く続くと、出血性のショックをおこして死亡する危険性もあり、緊急手術が必要となることもあります。
 ショック以外には、血尿(けつにょう)や腎部(じんぶ)(背部)の痛みと腫(は)れ、皮下の出血斑(しゅっけつはん)などがみられます。
 なかでも血尿は、もっとも重要な症状です。肉眼では見えない潜血(せんけつ)という程度の軽いものから、血液のかたまりを含むような重い血尿までありますが、かならずしも損傷の程度を反映しているわけではありません。
[検査と診断]
 まず、腹部の単純X線写真をとり、骨折の有無や消化管のガス像をみたうえで、造影剤を静脈注射して腎臓からの尿の排泄(はいせつ)をみる経静脈性尿路造影(けいじょうみゃくせいにょうろぞうえい)や、超音波、CT、血管造影などの画像検査が行なわれます。
 これらの検査で、腎臓の損傷の程度、腎臓の周囲に血液がたまっているかどうか、尿が腎臓の外へもれているかどうかなどを確認して、治療の方法を決定します。
[治療]
 腎臓損傷の治療の基本は、生命の維持と、腎臓の機能をいかに保つかということです。腎臓損傷の90%以上は手術はせず、絶対安静にしたうえで、補液(ほえき)(体液のバランスを維持するために補給する水分や電解質など)や止血剤の使用などで対処します。
 出血が続き、ショック状態から回復しない場合は、開腹して腎臓の状態を確認し、腎臓の縫合や摘出などが行なわれます。
 腎臓損傷は、将来、合併症として高血圧や結石(けっせき)の形成がみられるので、治癒後(ちゆご)も厳重に経過を観察することが重要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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