急性腎炎症候群(読み)キュウセイジンエンショウコウグン

デジタル大辞泉 「急性腎炎症候群」の意味・読み・例文・類語

きゅうせいじんえん‐しょうこうぐん〔キフセイジンエンシヤウコウグン〕【急性腎炎症候群】

急性糸球体腎炎

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EBM 正しい治療がわかる本 「急性腎炎症候群」の解説

急性腎炎症候群

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 おもに上気道感染症や皮膚の感染症に引きつづいておこる腎臓糸球体の炎症を急性腎炎といいます。
 血液の混じった尿が代表的な症状で、いつもより濁っていたり、赤褐色だったりと、明らかに目で見てわかる場合もあります。肉眼でわからない場合でも、顕微鏡で調べると必ず血尿が認められます。むくみ(浮腫(ふしゅ))や高血圧、たんぱく尿がみられることもあります。
 多くの場合、のどの痛み(咽頭炎(いんとうえん))などいわゆるかぜの症状や皮膚の感染がおさまった数週後に、これらの症状が突然現れます。感染症以外の病気で同じような症状が引きおこされることもあります。
 多くは子どもにみられますが、成人に発症することも少なくありません。一般的には経過がよく、子どもは80~90パーセントが完全に治癒します。ただし、成人では約30パーセントが慢性化します。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 ほとんどの患者さんでは、溶血性連鎖球菌(ようけつせいれんさきゅうきん)(溶連菌)という菌による感染症がきっかけとなりますが、そのほかウイルス、寄生虫などの感染によって発症することも報告されています。現在のところ、免疫反応が発症に関係していると考えられています。感染により、細菌などに対する抗体がつくりだされ、それに補体(ほたい)という物質がついて免疫複合体という物質ができます。この免疫複合体が腎臓に運ばれ、ろ過作用をしている糸球体の網の目にひっかかってしまうために炎症がおきるのではないかと推測されています。糸球体のろ過作用が低下するため赤血球たんぱく質が尿に漏れだし、腎臓全体の機能が低下して老廃物や余分な水分が体内にたまるようになります。
 感染症がきっかけになったことが明らかでない場合は、腎臓の細胞を取って調べる検査(腎生検(せいけん))などのくわしい検査をして、原因となっているほかの病気を見つける必要があります。

●病気の特徴
 まれな病気で世界では10万人に9~28人の割合で発生するといわれていますが、衛生環境の改善や抗菌薬の早期投与などにより、発症率は減少しています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

 急性腎炎に特異的な治療はなく、浮腫などに対する対症的な治療が中心となります。

[治療とケア]安静を保つ
[評価]☆☆
[評価のポイント] 急性腎炎の患者さんに対して、腎臓への血流を保つために、とくに急性期には安静にすることが一般的に勧められています。しかし、自覚症状がほとんどなく、高血圧や肺浮腫もない状態なら、厳格な安静は必要としないというのが、最近の多くの専門家の考え方です。(1)

[治療とケア]食塩を制限する
[評価]☆☆
[評価のポイント] 尿の出が少なく(乏尿(ぼうにょう))、むくみがあり、体内に水分がたまっているときは塩分排泄(はいせつ)が低下しているので、塩分制限が専門家の意見や経験から一般的に勧められています。(1)(2)

[治療とケア]腎機能が低下しているときは、たんぱく質摂取の制限を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 尿の出が少ないため、たんぱく質摂取を制限するべきというのは、現在のところこの病気がおこるしくみからいって正しいと考えられており、専門家の間で十分なコンセンサスが得られています。(1)(2)

[治療とケア]利尿薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 尿の出が少なく、浮腫がある場合、利尿薬の使用で排尿が促され、浮腫や高血圧を軽減できることが臨床研究によって報告されています。(3)(4)

[治療とケア]降圧薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 溶血性連鎖球菌感染後の急性腎炎でおこった子どもの高血圧に対する降圧薬の効果が臨床研究によって示されています。(5)(6)

[治療とケア]抗菌薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 先行する感染症に抗菌薬を用いることが、その後の急性腎炎の発症を減らすかどうかは明らかになっていません。

[治療とケア]副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬や免疫抑制薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の使用はあまり効果がないことが報告されていますが、急速な腎機能の低下や腎生検で半月体形成が30パーセントを超えるような症例では使用することがあります。


よく使われている薬をEBMでチェック

排尿を促す
[薬用途]ループ利尿薬
[薬名]ラシックス(フロセミド)(3)(4)
[評価]☆☆☆
[薬名]ルプラック(トラセミド)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 利尿薬の使用で排尿が促され、浮腫や高血圧を軽減できることが報告されています。
[薬用途]サイアザイド系利尿薬
[薬名]フルイトラン(トリクロルメチアジド)
[評価]☆☆
[評価のポイント] トリクロルメチアジドの急性腎炎自体に対する効果は、専門家の意見や経験から支持されています。

カルシウム拮抗薬
[薬名]アダラートCR(ニフェジピン徐放剤)
[評価]☆☆
[薬名]アムロジン(アムロジピンベシル酸塩)
[評価]☆☆
[評価のポイント] ニフェジピン徐放剤の効果については確認されていませんが、動物実験レベルで、カルシウム拮抗薬のニトレンジピンには腎機能を改善させる効果のあることが示唆されています。

ACE阻害薬
[薬名]エースコール(テモカプリル塩酸塩)(6)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ACE阻害薬は急性腎炎の高血圧と腎機能の改善に効果があることが臨床研究によって確認されています。

AⅡ受容体拮抗薬
[薬名]ニューロタン(ロサルタンカリウム)
[評価]☆☆
[評価のポイント] ロサルタンカリウムを含め、AⅡ受容体拮抗薬の急性腎炎の患者さんに対する効果は、専門家の意見や経験から支持されています。

抗菌薬
[薬名]サワシリン/パセトシン(アモキシシリン水和物)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 先行する感染症に抗菌薬を用いることが、その後の急性腎炎の発症を減らすかどうかははっきりしていません。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
乏尿期には食塩・水分の制限を
 糸球体に炎症がおこる病気ですから、糸球体のろ過作用が低下します。赤血球やたんぱく質が尿に漏れだしたり、炎症の進行に伴って腎臓の排泄機能に障害がおきてきたりします。
 初期の尿の出が悪い期間(乏尿期)では、食塩に含まれるナトリウムや水分の排泄がうまく行われないため、食塩や水分の制限は絶対に必要となります。一方、たんぱく質摂取の制限は症状が進行し、腎機能の低下が著しくなった場合にのみ行われます。
 食塩と水分制限だけではコントロールできない急性腎炎の高血圧に対しては、ラシックス(フロセミド)などの経口利尿薬が使用されます。

抗菌薬は試みる価値がある
 溶血性連鎖球菌感染などの感染症の患者さんに抗菌薬を用いることによって、急性腎炎の発症を予防できるかどうかははっきりしていませんが、腎炎を引きおこしている原因として、免疫複合体(抗原抗体複合体)の可能性が考えられていますから、その元となる抗原を減らすことによって、この病気を抑える効果は期待されます。したがって持続的に感染症が残っているならば、抗菌薬を試みる価値はあるかもしれません。

(1)Couser WG. Glomerulonephritis. Lancet. 1999;353:1509-1515.
(2)長澤後度, 他. 腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン.日本腎臓学会誌. 1997; 39: 1-38.
(3)Powell HR, McCredie DA, Rotenberg E. Response to frusemide in acute renal failure: dissociation of renin and diuretic responses. Clin Nephrol. 1980;14:55-59.
(4)Retan JW, Dillon HC Jr. Furosemide in the treatment of acute post-streptococcal glomerulonephritis. South Med J. 1969;62:157-160.
(5)Morsi MR, Madina EH, Anglo AA, et al. Evaluation of captopril versus reserpine and frusemide in treating hypertensive children with acute post-streptococcal glomerulonephritis. Acta Paediatr. 1992;81:145-149.
(6)Parra G, Rodriguez-Iturbe B, Colina-Chourio J, et al. Short-term treatment with captopril in hypertension due to acute glomerulonephritis. Clin Nephrol. 1988;29:58-62.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

家庭医学館 「急性腎炎症候群」の解説

きゅうせいじんえんしょうこうぐん【急性腎炎症候群 Acute Nephritic Syndrome】

◎自然に治ることが多い
[どんな病気か]
 急性腎炎症候群は、腎臓の糸球体(しきゅうたい)が障害されることによって、たんぱく尿、血尿(けつにょう)、浮腫(ふしゅ)(むくみ)、高血圧などの症状が急激に発症する症候群です。ふつうは、かぜなど上気道(じょうきどう)の感染が先におこって、自然によくなる場合が多いものです。
[原因]
 いろいろな糸球体腎炎や全身性の病気が原因になります(コラム「急性腎炎症候群の原因となる病気」)。
 以前は、急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅうたいじんえん)といわれていた病気ですが、急性糸球体腎炎という病名は、溶連菌感染後(ようれんきんかんせんご)急性糸球体腎炎、あるいは非溶連菌感染後(ひようれんきんかんせんご)急性糸球体腎炎だけに使っていました。
 これらの病気が、急性腎炎症候群の代表的な病気であることはまちがいありませんが、現在では、もっと広い意味で、急性糸球体腎炎と同様の経過をとる病気を急性腎炎症候群と呼んでいます。
 溶連菌感染後急性糸球体腎炎がどのようにしておこるかを説明します。
 溶連菌という細菌が、上気道(のどまでの気道)や皮膚に感染して症状をひきおこすと、同時に血液中に溶連菌に対する抗体(こうたい)ができてきます。抗体は、菌を攻撃するために菌と結合します。この結合したもの(免疫複合体(めんえきふくごうたい))が、動脈を通って腎臓に入り、糸球体で濾過(ろか)されるとともに沈着して糸球体を障害し、急性糸球体腎炎をひきおこすと考えられています。
[症状]
 浮腫、高血圧、血尿が、急性腎炎の三大症状です。
 血尿は、糸球体からもれ出る赤血球の数が多ければ、肉眼で確認できます。数が少なければ、顕微鏡で見ないとわかりません(顕微鏡的血尿)。いずれにしても血尿は、急性糸球体腎炎にほぼかならず現われる症状です。
 腎臓のはたらきが悪くなると、尿量が減り、たんぱく質の老廃物が蓄積します。ひどい場合には、肺に水がたまって呼吸困難になったり、尿毒症(にょうどくしょう)(「尿毒症」)の症状がみられることもあります。
 検査では、まず尿の検査で、たんぱく尿や血尿がみられます。血液検査では、たんぱく質の老廃物であるクレアチニン、尿素窒素(にょうそちっそ)などが増えているのがわかります。
 溶連菌の感染が原因の場合は、溶連菌に結合しようとする抗体、抗ストレプトリジンO(ASO)あるいは抗ストレプトキナーゼ(ASK)が血液中で増加しているのが検査でわかります。急性腎炎症候群は、おもに免疫反応(めんえきはんのう)でおこる病気ですから、免疫反応で消費される血液中の補体(ほたい)(免疫にかかわるたんぱく質)が減っていることも検査でわかります。
◎安静と食事療法がたいせつ
[治療]
 急性腎炎症候群の治療は、安静と食事療法がたいせつです。とくに初期は、入院による絶対安静が望ましいと考えられます。
 食事療法としては、腎臓の弱り方の程度にもよりますが、まず、たんぱく質の老廃物がたまるのを抑えるため、食事のたんぱく質の量を制限します。また、急性腎炎症候群では、むくみで体液量が増加していますので、ナトリウムの摂取も制限します(「腎臓のしくみとはたらき」)。
 ただし、エネルギーが不足すると代謝(たいしゃ)がうまくいかず、たんぱく質が有毒なものになるので、カロリーの制限はしません。
 薬物療法としては、もし細菌による扁桃炎(へんとうえん)があれば、抗生物質を使います。高血圧とむくみに対しては、それぞれ降圧薬と利尿薬(りにょうやく)を用います。
[予防]
 扁桃炎をくり返し、そのたびに血尿やたんぱく尿がみられる場合は、予防のため扁桃の摘出を考えます。
[予後]
 とくに溶連菌感染後急性糸球体腎炎は治りやすい病気で、70%くらいの患者さんが完全に治りますが、残りは慢性化します。子どもが治る率はもっと高くて、90%ほどにもなります。

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