鱠とも書く。《和名抄》が〈細切肉也〉としているように,古くは生の魚貝類や鳥獣肉を細切りにしただけのものをいった。《日本書紀》景行天皇53年8月条などに名が見られ,〈羹(あつもの)〉とともに最も古い調理法といえる。室町期になると,山吹なます,卯の花(うのはな)なます,雪なます,笹吹(ささぶき)なます,その他多くの種類が登場する。山吹なますはカレイの肉にその卵をいってまぶしたもの,卯の花なますはぬた(酒かすにからしを加えたもの)であえたもの,雪なますは魚の上におろしダイコンを盛ったもの,笹吹なますはダイコンの笹がきを加えたもので,いずれもふつうは酢をかけて供した。刺身がなますから分化するのは室町中期ごろのことで,細切りのものを合せ酢であえた物をなます,なますよりも大きく切り,タデ酢,ショウガ酢,煎酒(いりざけ)などの調味料を別器で添えるのを刺身と呼ぶようになった。現在では酢の物の呼称が一般的で,なますの名はわずかにダイコンとニンジンのせん切りを材料とする紅白なます,それに干柿を加えた柿なますなどに残るだけとなった。また,地方によってはアジなどの肉をみそとともにミンチ状にたたいたものを沖なます,たたきなますと呼ぶこともある。
執筆者:鈴木 晋一
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