臍帯巻絡(読み)さいたいけんらく(英語表記)Nuchal cord

六訂版 家庭医学大全科 「臍帯巻絡」の解説

臍帯巻絡
さいたいけんらく
Nuchal cord
(女性の病気と妊娠・出産)

どんな病気か

 臍帯巻絡とは、臍帯が胎児の体の一部に巻きついている状態のことで、全分娩例の20~25%にみられます。頸部の巻絡がほとんどを占めますが、四肢、体幹に起こすこともあります。巻絡の回数は1回のことが多いのですが、2回以上の場合もあります。

 臍帯は、胎児にとって胎盤を介して母体から酸素や栄養をもらうための大切な命綱です。臍帯に異常が起これば、胎児は低酸素によって仮死(かし)状態となり、時には死亡することもあります。臍帯の異常には卵膜付着や臍帯下垂(かすい)などさまざまなものがありますが、臍帯巻絡はほかの臍帯異常に比べて圧倒的に頻度の高いトラブルです。

原因は何か

 活発な胎動や長い臍帯が誘因になるといわれていますが、はっきりとはわかっていません。胎動が原因であることは、胎動の激しい胎児に臍帯巻絡が多い傾向があることからも推測されます。

 また、臍帯巻絡がある胎児の臍帯は、ない場合よりも一般的に長いのですが、それが原因なのか結果なのかはまだわかっていません。引っ張られて伸びた結果であるとする意見が多いようです。

検査と診断

 出生前の診断法としては、超音波断層法が有効です。これによって臍帯巻絡の有無はかなり確実に診断できますが、超音波カラードプラー法やパワードプラー法なら100%近く診断ができ、巻絡の回数も推測できます。血流障害を引き起こすようなきつい巻絡の有無は、パルスドプラー法で臍帯静脈波動の存在を確認することにより推測できます。

治療の方法

 出生前に超音波で臍帯巻絡と診断されても、出生前に巻絡を解除する方法はありません。分娩時の胎児の心拍モニタリングで高度変動一過性徐脈(いっかせいじょみゃく)などの異常心拍パターンが現れ、胎児仮死胎児ジストレス)と診断されると、急速な分娩がすすめられます。

 分娩時、胎児の頭が娩出した時に頸部巻絡(けいぶけんらく)がわかった場合は、そのまま体幹を娩出するか、臍帯を頭のほう、あるいは体幹のほうへ抜くと体幹を娩出できることも多いのですが、臍帯がきつく巻かれていると、体幹の娩出が困難になったり、顔がうっ血してくる場合があるので、大至急臍帯を切断します。

病気に気づいたらどうする

 妊娠中に臍帯巻絡と診断されたら、専門の医師による検査を受けます。超音波断層法で胎児の発育状況胎位を、ノンストレステストNST)で胎児心拍パターンの状況を総合判断し、分娩の方針が決定されます。

菊池 昭彦

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「臍帯巻絡」の意味・わかりやすい解説

臍帯巻絡 (さいたいけんらく)
coiling of the cord

臍帯が子宮内で胎児の頸,胴などに巻きつくことをいう。臍帯が過度に長い場合に起こりやすく,巻絡の回数は1回が最も多く,ときに2回ないし3回巻きつくこともある。このため分娩時には胎児が下降するのをじゃましたり,分娩中に産道と胎児の間に臍帯が圧迫される結果となり,胎児・胎盤血行障害を起こしやすくなる。したがって胎児仮死新生児仮死が起こり,蘇生を要することが少なくない。しかし1回程度の巻絡で臍帯が比較的長いときには,胎児の娩出時に早期に臍帯切断を行ったり,巻絡をほどくことが可能なので,異常なく済むことが多い。妊娠中から臍帯が巻絡しているかどうかを検査することは従来不可能であったが,最近,分娩監視装置が使われるようになり,胎児の心拍数図に特有な変動性一過性徐脈variable FHR decelerationがみられることから,臍帯巻絡の推定ができるようになった。徐脈の程度の強い場合は帝王切開も行われる。
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家庭医学館 「臍帯巻絡」の解説

さいたいけんらく【臍帯巻絡 Coiling of the Umbilical Cord】

[どんな病気か]
 胎盤(たいばん)と胎児(たいじ)をつなぐ臍帯(さいたい)(へその緒(お))が胎児のからだの一部に巻きつくことを、臍帯巻絡といいます。
 胎児のくびに巻きつく場合がもっとも多いのですが、そのほか四肢(しし)(手足)や体幹(たいかん)(胴体(どうたい))に巻きついていることもあります。また、通常は1回のことが多いものですが、2回以上の場合もあります。過長(かちょう)臍帯(臍帯が長いこと)や、胎児の活発な運動が原因になるといわれています。
[治療]
 臍帯巻絡があっても問題のないのがふつうですが、ときには、臍帯の血行が不良となって胎児の状態が悪くなったり、お産の進行が止まったりすることがあります。
 そのようなときには、頭部娩出(べんしゅつ)後に巻きついている臍帯を切断して分娩(ぶんべん)させます。
 また、非常にまれですが、帝王切開(ていおうせっかい)(「特殊な分娩」の帝王切開術)が必要となる場合もあります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「臍帯巻絡」の意味・わかりやすい解説

臍帯巻絡
さいたいけんらく
coiling of the umbilical cord

臍帯の異常の一つ。羊水中の胎児の身体の一部,特に頸部や躯幹に臍帯が巻きついた状態をいい,妊娠や出産に著しい障害を招くことがある。分娩が進行するにつれて臍帯が締めつけられ,内部の血管が圧迫されて,胎児は酸素不足に陥ることがあるが,普通は胎児に直接,障害を与えることは少い。

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