航空機騒音(読み)こうくうきそうおん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「航空機騒音」の意味・わかりやすい解説

航空機騒音
こうくうきそうおん

航空機の発着に伴う騒音。日本において航空機騒音が大きく社会問題化したのは、1959年(昭和34)国際線、国内幹線に大型ジェット機が就航するようになってからである。空港・軍事基地周辺の住民から離着陸時の騒音や排気ガスによる健康被害、生活被害、情緒被害が指摘され、訴訟問題にも発展していった。

 行政側の対応としては、1967年に航空機騒音防止法(「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」昭和42年法律第110号)を制定し、国の設置・管理する空港のうち14の空港を特定飛行場として、学校、病院や一般住宅の防音工事助成や移転費用の補助を実施している。さらに、とりわけ騒音問題が深刻である大阪国際空港、福岡空港を周辺整備空港に指定し、認可法人(のち独立行政法人空港周辺整備機構を設置、国からの受託事業や周辺開発事業を進めている。また、成田国際空港においても、特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法により騒音対策事業を実施している。

 騒音基準の行政上の施策目標値としては1973年に公害対策基本法に基づいて「航空機騒音に係る環境基準」が設定された。住居専用地域ではWECPNL加重等価平均感覚騒音基準。「やかましさ」の評価単位)が70以下、その他の住居地域では75以下と定められている。

[秋葉 明]

対策

航空機騒音は、主としてジェットエンジンから高速で噴出される排気ガスが大気を攪乱(かくらん)するために生ずるものであり、もっとも有効な対策としては発生源の騒音を低くすることである。1975年10月の航空法の改正により、定められた騒音の基準値を超えた航空機の飛行ができなくなった。それぞれの機種に応じて減音対策を実施しているが、とりわけ、高バイパス比のターボファンエンジンの開発は運航効率の向上、低騒音化に大きく貢献している。さらに、かつては長距離洋上飛行は3基以上のエンジンを有するものでなくてはならなかったが、安全性を満たせば双発機でも認められるようになった。その結果長距離路線でも、4基のエンジンを有するジャンボ機や3基エンジンのマクダネル・ダグラスMD-11型機などから、大型機でありながら大型エンジン2基のボーイング777型機へと主力が変わりつつあり、騒音の面でも大きく改善されている。さらに、機体重量の低減化などで低騒音となった中型機のボーイング787型機が登場し、かつてと比べると、騒音発生源の面からの対策が進んだ。

 それぞれの空港においては、夜間や早朝の運航の規制を実施するほか、運航にあたっては居住地域を避ける飛行ルートや、エンジン推力を調整するなど、運航方式による騒音軽減対策が実施されている。もっとも有効な対応策は空港と居住地域の分離であり、関西国際空港や中部国際空港の人工島による設置や東京国際空港の沖合いへの拡張移転は騒音対策をも兼ねている。

 また、一方では、空港周辺を騒音の影響をあまり受けない機能に改めることによって、空港と地域との共存がなされてきた。

[秋葉 明]

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改訂新版 世界大百科事典 「航空機騒音」の意味・わかりやすい解説

航空機騒音 (こうくうきそうおん)

航空機からの騒音はエンジン騒音と機体騒音から成る。ジェットエンジンの場合,エンジン騒音は勢いよく後方に噴出される高温高圧の多量のガスがまわりの空気をかき乱すために生ずるジェット音と,エンジン内のファンや圧縮機などが高速で回転するための機械音などから成り,一般にプロペラエンジンの場合より騒音が著しく高い。機体騒音は主として離着陸のときに出したフラップや脚が空気をかき乱して発生するもので,現在のところ,ジェットエンジン騒音ほど問題になってはいない。1965年ごろジェット輸送機の普及に伴い,とくに空港周辺の住宅地域で騒音公害がひどくなったため,69年,アメリカ連邦航空局(FAA)は航空機騒音基準を制定し,その時点以後に開発される航空機に適用することとした。さらに77年この基準を改訂し,いっそう厳しいものにした。ICAO(イカオ)もこれに従って,ほぼ同様の基準を決めている。このため,新しく開発されるジェット輸送機は,旧式のものに比べて騒音が著しく低減されており,ほぼ同じ大きさのジェット輸送機で比べると,最近のものは65年ごろのものより15~20dBも低く,静かなジェット機になっているといえる。ジェットエンジンの騒音を低減するには,同じ推力を発生するのに,少量のガスを高速で排出する代りに,多量のガスをより低速で排出することにより,周囲の空気の乱れを少なくしたり,エンジンを入れるナセルの内面に吸音材を張って,エンジンから出た騒音を吸収したりする方法が種々研究され,効果をあげている。
空港公害 →騒音
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「航空機騒音」の意味・わかりやすい解説

航空機騒音
こうくうきそうおん
aircraft noise

航空機から発する騒音。大型ジェット機のエンジンから発する音は 160dBになるものもあり,しかも不快感の激しい金属音が含まれている。大阪国際空港では,ラッシュ時には1分 30秒~2分に1回の割合で離着陸するため,空港周辺,特に飛行コースの直下は WECPNL90~95にもなり,大阪では航空機騒音の住居地域基準である WECPNL70をこえる住宅が 53万世帯にもなっていた。 1967年公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律が制定され,障害の防止,損失の補償などが定められて,飛行の方向を指定したり,学校,民家の防音工事助成などが行われるようになったが,生活環境の保全にはなお遠いため,大阪国際空港付近の住民からは,飛行時間を短縮し,損害の賠償を求める訴訟が起され現在も係争中である。 73年には航空機騒音にかかわる環境基準が定められ,住居地域 WECPNL70以下,その他 75以下とされているが,達成年度は 10年前後となった。対策としては,航空機の低騒音化が進められ,高騒音機である B707は原則的に運行禁止となり,低騒音機の B767などが積極的に導入されたため,環境基準設定当時に比べて騒音状況は全般的に改善傾向にある。また大阪国際空港については関西新空港の開港によってその機能が一部代替されることになった。

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百科事典マイペディア 「航空機騒音」の意味・わかりやすい解説

航空機騒音【こうくうきそうおん】

航空機からの騒音はエンジン騒音と機体騒音からなる。特にジェットエンジンの場合,強い勢いで後方に噴出される高温高圧の多量のガスがまわりの空気をかき乱すために生じるジェット音と,エンジン内のファンや圧縮機などが高速回転するために生じる機械音が著しく高い。1965年ごろジェット輸送機の普及に伴い,おもに空港周辺の住宅地域で騒音公害がひどくなったため,米国の連邦航空局は騒音基準を制定,以後国際民間航空機関(ICAO)もほぼ同様の基準を決めた。日本でも航空機騒音防止法(1967年)が制定されており,特定空港周辺での騒音のうるささの程度をWECPNL(加重等価持続知覚騒音レベル)という単位で示したうえ,数値に応じて防音工事の実施,住民の移転補償などを定めている。しかし対応は十分といえず,大阪空港公害訴訟(1969年提訴,1984年和解)をはじめ,各地の民間空港や日本にある米軍基地・自衛隊基地の騒音被害は続いている。

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世界大百科事典(旧版)内の航空機騒音の言及

【空港公害】より

…しかし,その拠点である空港自体は従来の規模を若干拡張する程度のものが多く,加えるに,その大半は内陸部の人家の密集した地域に立地されているために,周辺住民に対して,騒音をはじめ種々の被害を与えている。ジェット機では乗用車の実に10万台分にあたる騒音を発するが,この航空機騒音は高周波成分を含む金属的音質を有しており,また音源が空中にあるため建物などによる遮へい効果がなく,直接広範囲に音をまき散らすことになる。例えば,大阪国際空港の周辺の住民居住地では107ホンに制限されているものの,地下鉄の中が80ホン,電車の通るガード下で100ホンといわれていることから,その騒音の激しさは想像がつくであろう。…

※「航空機騒音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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