日本大百科全書(ニッポニカ) 「電波気象学」の意味・わかりやすい解説
電波気象学
でんぱきしょうがく
radiometeorology
とくに周波数の高い電波(超短波、極超短波、マイクロ波など)と気象との関係を研究する分野。これには、気象の変化による電波伝播(でんぱ)の変化を調べることと、逆に電波を利用して気象の変化を知ることなどが含まれる。前者は1930年代にすでに研究が始められ、北アメリカでは、超短波の受信強度は冬に極気団に覆われると低くなり、夏の亜熱帯気団の下では高くなることが観測されている。
後者はとくに第二次世界大戦中より、軍事レーダー、気象レーダーなどに盛んに利用された。すなわち、極超短波は波長が短いので光と同じ性質をもつが、到達距離、たとえば光学地平線に対する電波地平線は前者より長い。第二次世界大戦中、海面上に発生するラジオダクトradio duct(極超短波を遠距離まで伝播させる大気層)の利用により、光学的地平線のかなたの船舶の位置を探知したり、数百キロメートル遠方の航空機の来襲を検知したりして活躍した。またこの電波は大気中では減衰が小さく、降水粒子(雨滴、雪片など)、乱流、大気状態の不連続などを後方散乱による反射波(エコー)によってとらえることができるため、気象レーダーに利用された。
気象レーダーは集中豪雨や豪雪監視用をはじめ、航空気象用、雷電検知用としてミリ波、ドップラー、ソーダー、ドップラーソーダー、ライダーなどさまざまに利用されている。また気象衛星により雲や海面水温などを測定する技術も進んできており、このほか、空電現象を測定して大気擾乱(じょうらん)を調べることもある。
2000年代に入ると、気象庁は「雷監視システム(LIDEN(ライデン):Lightning Detection Network System)」を30か所に展開して主として航空機の安全に資するほか、ウィンドプロファイラとよばれる観測装置による「局地的気象監視システム(WINDAS(ウィンダス):Wind profiler Network and Data Acquisition System)」を30か所に展開して上空200メートルから5キロメートルまでの風向・風速を高さ100~600メートル間隔・時間10分間隔で連続測定し、大気下層の擾乱の微細構造の把握と解明に資している。1980年代以降、気象学のほとんどの部門は高性能の電波機器を観測手段に用いているので、みな電波気象学である。それゆえ、21世紀の電波気象学は、特殊な現象の研究を除き、実質的には観測機器による気象学の分類名といえよう。
[内田英治・股野宏志]