日本大百科全書(ニッポニカ) 「船祝い」の意味・わかりやすい解説
船祝い
ふないわい
年頭に行う漁民の仕事始めの儀礼。多くは1月2日の行事で、「乗り初め」「乗り出し」ともいう。船は暮れのうちから陸に上げて洗い清めておき、新しい苫(とま)をかけ帆柱に注連(しめ)や松飾りをつける。当日は船霊(ふなだま)様に御神酒(おみき)や餅(もち)などを供えたのち、船主たちが乗って沖へこぎ出し、付近の海辺に祀(まつ)ってある夷(えびす)様などの神社に参拝したり、形ばかりの漁をしたりする。このとき沖か港の中で、船を左回りに3回まわすのは、船おろし(進水式)の場合と似ている。このあと浜や船主の家で酒を飲んだり、乗り出しをせずに酒宴だけのところもある。共同漁労の場合は、船祝いの日に舟子(かこ)の契約をすることがあり、集まってきて酒を飲んだ者は、その1年間、仲間として働くことを承諾したことになる。石川県や富山県の海沿いの村々では、正月11日の仕事始めを起舟(きしゅう)といい、この名称が内陸部の農村にまで及んでいる。
[井之口章次]