日本大百科全書(ニッポニカ) 「花月草紙」の意味・わかりやすい解説
花月草紙
かげつそうし
松平定信(さだのぶ)の随筆。徳川11代将軍家斉(いえなり)を補佐して寛政(かんせい)の改革政治を断行した松平定信が、老中を致仕したのち、1796年(寛政8)から1803年(享和3)の間に執筆した。書名は、巻1の巻頭に「花のこと」「月のこと」の章があるのに基づく。社会の諸事相、人生の明暗、自然の風物など、あらゆる事象に対する感想を流麗な雅文でつづったもので、全156編よりなる。自然界の現象や景物を観察して感想を述べた章には、風雅を愛した著者の人柄がよく表れているとともに、世俗のさまざまな事象を描いた章には、あらわではないが、為政者の立場にある著者の心情がうかがわれ、文人宰相の随筆として興味深い。刊本は著者の自筆板下によるが、刊年は未詳である。
[神保五彌]
『『花月草紙』(有朋堂文庫)』