芸術のための芸術(読み)げいじゅつのためのげいじゅつ(英語表記)l'art pour l'art フランス語

精選版 日本国語大辞典 「芸術のための芸術」の意味・読み・例文・類語

げいじゅつ【芸術】 の ための芸術(げいじゅつ)

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デジタル大辞泉 「芸術のための芸術」の意味・読み・例文・類語

芸術げいじゅつのための芸術げいじゅつ

《〈フランスl'art pour l'art芸術それ自体に絶対的価値を置く芸術至上主義主張

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「芸術のための芸術」の意味・わかりやすい解説

芸術のための芸術
げいじゅつのためのげいじゅつ
l'art pour l'art フランス語

芸術は美だけを目的とする自律的な存在であり、その他のいかなる目的によっても規定されるべきではないとする主張。元来19世紀前半のフランスの「芸術至上主義」の標語であったが、現在では「芸術至上主義」とほぼ同義にも用いられる。「人生のための芸術」l'art pour la vieに対立する。

 V・クーザンは「芸術が芸術のためにあるべきであるのと同様、宗教は宗教のために、道徳は道徳のためにあるべきである」(『真美善論』Du vrai, du beau, et du bien 1836。1818年の講義の記録)と述べ、「芸術のための芸術」の命名者とされる。このことばの厳密な初出は、B・コンスタンの日記(1804年2月11日)にあり、彼はカント美学に言及しつつ「目的を持たない芸術のための芸術」と記した。この主張が広く流布する1830年代のフランスでは、七月革命(1830)以後の金融資本家の支配下産業革命が進行し、悲惨な労働者階級が生み出されていた。この不安状態を背景に当時のジャーナリズムが、芸術は政治や社会改革に奉仕すべきだという主張を掲げて文学批判を行ったのに対抗して、ゴーチエは「芸術のための芸術」を自己の創作の立場として宣言した。小説『モーパン嬢』の序文(1834)で彼は「真に美しいものは何の役にも立ち得ないものだけであり、有用なものはすべて醜い」と極言したが、これは芸術理論の展開というよりは論戦的性格の強いものであった。この主張は、高踏派の詩人たちや、またボードレールフロベール、マラルメらによって受け継がれる。広義にはイギリスのワイルド、アメリカのポーをも同様の場にたつ作家としてあげることができる。これに対立する「人生のための芸術」は、現実の人生の問題との関連を保ち社会の要求に即応する芸術を主張し、トルストイ、ギュイヨーらの考えによって代表される。また、20世紀前半の形式主義的芸術理論を「芸術のための芸術」の流れをくむ思想としてとらえる場合もある。代表的理論家は、文学論におけるブラッドリー、視覚芸術の分野におけるベル、フライらである。この理論では、芸術作品の意味は作品の形式構造自体に存し、作品外的なものを指し示さないことが強調される。

 この主張は一般に芸術創作や批評の主要原理の一つとみなされると同時に、ダダ、シュルレアリスム、キュビスムなどの理論的基礎ともなっている。

[小穴晶子]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「芸術のための芸術」の意味・わかりやすい解説

芸術のための芸術
げいじゅつのためのげいじゅつ

芸術至上主義」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の芸術のための芸術の言及

【美術】より

…つまりこの概念は17世紀に発生し18世紀に一般化したものであり,当時の古典美礼賛の風潮(新古典主義)と結びついている。この時代には,感覚的価値としての美の定義が試みられ,自然美と芸術美が峻別されて両者のうち後者が人間精神の所産として優位にあるものとしてたたえられ(G.W.F.ヘーゲル),美の表現以外のものを目的としない純粋な芸術いわゆる〈芸術のための芸術l’art pour l’art〉(V.クーザンが命名)こそ真の芸術であるとされた。ここでいう芸術という概念も実はこのころ発生したのであり,語としては中世以来のアルスars(ラテン語),アール,アートart(フランス語,英語),アルテarte(イタリア語),クンストKunst(ドイツ語)がそのまま用いられて,それに新しい意味づけがされたのである。…

【唯美主義】より

… 19世紀以来の唯美主義は観念的美の世界と悪魔的な官能美への惑溺,すなわちデカダンスdécadenceの二極を絶えず往復しているが,これはスウィンバーンに影響を与えたフランスの文学者ゴーティエボードレールに始まる。前者は,いわゆる〈芸術至上主義〉,すなわち〈芸術のための芸術l’art pour l’art〉(命名は1845年,V.クーザンによる)の唱道者として知られ,効用性を超越した自律的な美を主張した。のちに彼は《文学的肖像と回想》(1881)で,様式としてのデカダンスを〈このうえない成熟に達した芸術であり,輪郭がきわめて曖昧(あいまい)でつかみにくいものを表現しようと格闘し,腐敗した情熱の死にぎわの告白や妄執のもたらす狂気寸前の幻覚を伝えようとするもの〉と定義,唯美主義の到達した極点を示した。…

※「芸術のための芸術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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