日本大百科全書(ニッポニカ) 「蒸し物」の意味・わかりやすい解説
蒸し物
むしもの
食品を蒸気で加熱して食べやすくする調理法で、赤飯や茶碗(ちゃわん)蒸しなどの各種料理、菓子の製造に利用される。日本料理や中国料理に多く、蒸籠(せいろう)(中国料理では蒸籠(チョンロン))などの蒸し器を用いる。人類は、はるかな昔から温泉の蒸気などを利用して食品を蒸していたと考えられる。原始的な蒸し器である土製の甑(こしき)はすでに中国の仰韶(ぎょうしょう)文化期(前4000~前3000)にみられ、日本では弥生(やよい)時代中・後期(紀元前後~300)に出現する(のち改良されて蒸籠となる)。「蒸す」とは、100℃に加熱された潜熱を利用すること、つまり1グラムの水蒸気が水に戻るときに出す540カロリーの熱量を用いることである。100℃の水蒸気は食品を蒸すことにより潜熱を失って水に戻り、また加熱されて水蒸気となる。この循環を繰り返す間に、水分の少ない食品は加水され、逆に水分の多い野菜などはある程度水分を失う。また、蒸すのはゆでるより時間がかかるため、野菜類は青みを失うことが多い。食品に含まれる栄養素のなかで、低い融点温度をもつ脂肪は、蒸すことにより溶けて流失するが、焼く場合よりは損失が少ない。関東風のウナギの蒲(かば)焼きなどは、白焼きのウナギを蒸すことにより脂肪をある程度流し出す効果がある。肉や魚は蒸すとタンパク質が凝固して固くなるが、表面も内部も熱の通り方にほとんど差がないので、表面と内部がほぼ同じ固さとなる。蒸し物はビタミンの流失が比較的少なく、とくにビタミンCの流失は、ゆで物に比べ、葉菜類で1割程度にとどまる。サツマイモなどのデンプン質のものは、蒸すと水分が十分に補給されるため糊化(こか)がよく行われ、芯(しん)まで味がよくなる。
[多田鉄之助]
調理上の注意
蒸すことは火加減の操作が重要である。多くは中火を用いるのが適当であるが、食品の種類によって弱火あるいは強火のほうがよい場合もある。わりあいに低い温度で蒸すのは茶碗蒸しで、もし高温で蒸すと卵が強く凝固するとともに、気泡が中を抜け通るため鬆(す)ができる。飯を蒸すには、強火で短時間に仕上げるのがよい。長い時間をかけると余分の水分を含み水っぽくなる。赤飯も、多量の水蒸気を必要とするので強火を用いる。火の通りのよい食品は中火がよく、魚類はたいてい中火で蒸す。蒸し器の中の水が沸騰して水蒸気になってから、食品を入れたほうがよい。早く入れると水っぽくなるおそれがある。また、途中で水が足りなくなった場合は、熱湯を加える。水を加えると途中で蒸し物の温度が下がり、料理の味が悪くなる。
蒸し物の利点としては食品の形が崩れないこと、魚貝類や野菜類では変色が起こりにくいことなどがある。蒸すと水分が多く出る魚貝類などは、皿などにのせて、食品から出る美味な液を流失させないようにする。蒸し物の欠点は、魚貝類の生臭さや野菜などのえぐ味がとれないことである。蒸し物の材料には、味にくせのないものがよい。また、水滴が食品に落ちないよう、ふきんなどを蒸し器の蓋(ふた)の下に張って蒸すことなど、注意が必要である。
[多田鉄之助]