赤色系の植物染料の一種。またその色名。アジア南部に産するマメ科(APG分類:マメ科)の小高木(学名Caesalpinia sappan L.)で、飛鳥時代から輸入され、その幹を切り砕いて煎(せん)じ、薬用や絹の染色に使われた。灰汁(あく)やミョウバンでアルミニウム媒染を行い、やや茶色みまたは紫色みのある赤色、鉄媒染して紫色に染めた。養老(ようろう)の衣服令、服色の項に、蘇芳は紫の次、緋(あけ)の上に掲げられていて、高位の者が用いる色であったことを示している。それは舶来品で貴重なものであったためであろう。鎌倉時代後期から琉球(りゅうきゅう)貿易によって盛んに輸入され、蘇芳染めの染織品が多くなった。襲色目(かさねいろめ)では、蘇芳は表裏とも蘇芳、下襲の場合に限って表白、裏蘇芳のものを蘇芳といい、また躑躅(つつじ)ということもあった。裏濃(うらこき)蘇芳は表薄蘇芳、裏濃蘇芳である。木工の発色にも用いられ、著名な正倉院の赤漆文欟木厨子(かんぼくずし)をはじめとする赤漆塗りの調度は、後世の赤漆と異なり、木地に蘇芳を塗ってから生漆をかけたもの。
[高田倭男 2019年10月18日]
蘇方・蘇枋とも。アジア南部に産するマメ科の小高木。薬効があり,幹材の煎汁は染料として用いた。媒染剤によって赤・紫・茶などに染められ,ことに江戸時代には紅染や茜染(あかねぞめ)のかわりに重用されたが,変色・退色しやすい欠点をもつ。色名としては青みをおびた紅色をいい,公家の装束のうち,襲色目(かさねのいろめ)では表は薄蘇芳,裏は濃蘇芳,織色では経糸(たていと)・緯糸(よこいと)とも紫あるいは赤みの二藍(ふたあい)のものをいった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
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