広く桑苗、蚕種、蚕蛹(さんよう)、繭(まゆ)、生糸(きいと)、真綿(まわた)、副蚕糸などの生産を行う産業をいうが、養蚕業と製糸業がその中心をなす。戦前からの日本資本主義の形成、確立、展開のなかで、経営規模が零細な農業との関連性が深く、蚕糸業の経営規模も零細であった。したがって、これの健全な発達を図るべく、1911年(明治44)に旧「蚕糸業法」が、45年(昭和20)に新「蚕糸業法」が制定された(98年廃止)。
蚕糸業の起源は古く、日本にも古代に朝鮮を経由して伝来したが、幕藩体制初期ごろまでは、絹織物原料を自給できず、生糸は中国からの輸入によっていた。幕府および諸藩の奨励により、しだいに各地で養蚕、製糸、織物が盛大になってゆくが、本格的発展は幕末の1850年代以降といえよう。安政(あんせい)開港の結果、一躍蚕糸業は販路を海外市場に拡大することとなり、ヨーロッパの微粒子病流行とも重なって、発展の契機が与えられた。かくて、中国、フランス、イタリアをしのいで世界一の蚕糸国になり、戦前期では、1912年(大正1)以降35年(昭和10)まで、絹糸類の輸出は総輸出額に対してつねに20%を超え、1922年には49%にも達している。生糸輸出は、戦前期に限らず外貨獲得となって、農家経済にもきわめて大きな役割を果たしてきたが、第二次世界大戦後では総輸出額の1%にも満たず、とくに60年以降、内需のために輸入が始まり、発展途上国からの追い上げによって、66年以降は生糸輸出より輸入が上回っている。
[加藤幸三郎]
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