翻訳|filature
繭から生糸を作る諸工程の総称。広義では玉糸や野蚕(やさん)糸を作ることを含めることがあるが,一般にはカイコの作る繭を原料として生糸を作るための,生繭(なままゆ)の乾燥(乾繭(かんけん)),貯繭,原料調整,煮繭,繰糸(そうし)および揚返し,仕上げなどの一連の工程をいう。(1)乾繭 生繭を乾燥するのは,殺蛹(さつよう)して発蛾(はつが)を防ぎ,長期間貯蔵しても,カビが発生しないようにすることを目的としている。乾燥温度は初期は110~120℃前後とし,乾燥の進行に伴い順次温度を下げ,終期は60℃前後で乾燥を終わる。乾燥の所要時間は5~6時間である。(2)貯繭 繭は季節的な産物であるから,年間を通して操業するために,平均4ヵ月,ときには6ヵ月以上の長期間にわたり貯蔵保管される。貯蔵中に繭の性質は温湿度などの影響を受け,徐々に変質し解舒(かいじよ)性が低下する。また,貯蔵条件が悪いとカビが発生したり,管理が適切に行われないと,害虫やネズミの食害を受け,製糸原料としての価値を失うことがある。(3)調整 繭はカイコの品種,蚕期,生産地,作柄などにより,荷口ごとの性状が異なるので,生糸の生産計画にもとづいて原料繭の調整を行う。それは,繰糸に不適な繭を選別して除くとともに,性状が比較的類似する荷口を合併・混合して均質化を図るためであり,この作業は通常煮繭処理の直前に行われる。(4)煮繭 繭は繭糸相互が膠着(こうちやく)して繭層を構成している。煮繭は繭糸相互を膠着する役割をしているセリシンを熱水,蒸気あるいは化学薬剤などにより,膨潤・軟和させ,繭を繰糸する際,膠着抵抗により繭糸が切断したり,もつれたまま繰られて,生糸にふしが生じないためにする処理をいう。繭層セリシンを膨潤・軟和するには,まず繭層を湿潤させ,次いで膨潤させる。均一な湿潤を図るには,暫時,繭を蒸気中に入れたのち,低温湯に急速に移すといった温度変化を利用する方法,低温中の繭を加圧または減圧処理をして行う方法がある。膨潤は湿潤繭を飽和蒸気や熱水および温水で処理して行う。赤外線を一部併用すると効果がある場合がある。現在,最も一般的に使用されている進行式蒸気煮繭機は,繭層に適度かつ均一な水分を浸潤させるための浸漬(しんし)・浸透部,水分を含んだ繭層を加熱してセリシンの膨潤・軟和を図る熟成部(蒸煮部ともいう),繭腔内の湯量を制御して煮熟繭の浮沈を調整し,さらに膨潤したセリシンを適度に凝集させ安定化を図るための調整部など,大別すると3工程で構成されるが,これら一連の煮繭処理の条件は,原料繭の性状や煮繭用水の水質などにより異なる。(5)繰糸 煮熟繭から1本の繭糸をとり出し,これを数本合わせて集束し1本の生糸糸条として小枠に巻き取ることを繰糸という。繰糸方法は繰糸機械の進歩によって変わってきているが,現在は自動繰糸機を用いる自動繰糸法が主流となっている。繰糸中に生じる糸故障(繰糸中の生糸糸条が切断したり,ふしが検出されたとき,回転が停止し繰糸が中断すること)の修理作業,繊度感知器や給繭器の洗浄作業,一定量の生糸が巻き取られた小枠を交換する作業などは人手により行われるが,繰糸を連続し一定の太さの生糸を作るのに最も重要な接緒(せつちよ),正緒繭の補給,落繭(らつけん)の捕集,分離などの作業はほとんど自動化されている。標準型の自動繰糸機1セットを稼働するのに要する作業者は4~6名で,1日1セットあたりの生糸生産量は70~75kgである。(6)揚返し・仕上げ 繰糸工程で小枠に巻き取られた生糸を周長1.5mの大枠に巻きかえし,一定量の綛(かせ)とし,綛を束装する工程を揚返し・仕上げという。最近は小枠から生糸をボビンあるいはチーズの形態に巻きあげて包装する方法(管状束装という)が普及してきている。
製糸業は製糸の各工程において蒸気や熱水および温水を大量に使用し,しかも用水の性質の適否が生糸の生産効率に影響を与える。製糸用水は,無色・清澄で,原水のpHは7.0,煮沸後のpHが8.6~9.0,硬度(ドイツ硬度)は1.7~2.4,Mアルカリ度(CaCO3ppm)は25~30で,鉄,マンガンなどの金属イオンを含まないものがよいとされている。製糸廃水はタンパク質を主成分とする有機廃水で,BOD値は160~200ppmの範囲にある。廃水処理には活性汚泥法,曝気(ばつき)式ラグーンなどの生物学的処理が行われている。
→生糸
執筆者:小河原 貞二
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