日本の行政法では,行政決定は行政庁が専決的に行い,その決定の相手方等の手続的権利は事後の行政争訟の段階で保障すれば足りるとされてきた。しかし,行政決定が行政庁が集積している専門的知識・経験にもとづく裁量にゆだねられるとしても,その裁量判断がどのような基準にもとづいて行われるのか,どのようにして基礎事実を認定するのかが明らかにされていないと,公正な手続として国民の信頼を得ることはできない。特に,日本では行政決定の過程でさまざまな行政指導が行われており,行政決定の手続の不透明さに疑問がもたれていた。
行政手続法は,英米法においてアメリカ合衆国憲法上の適正手続(デュー・プロセス・オブ・ロー)やイギリスの自然的正義原則(Natural Justice)にもとづいて判例法として早くから確立し,立法化されていた。日本に行政手続の考え方は第2次大戦後に取り入れられたが,最近までは個別の法律の中に必要に応じて規定するにとどまり,諸外国のように統一的な行政手続法はなかった。しかし,行政手続の意義を認める最高裁判所判決など判例が形成されてきたことや,近年,日本の許認可行政などの行政決定過程の公正性と透明性を求める声が高まってきたことなどの社会状況を背景にして,1993年に日本の行政法の歴史上はじめて行政手続法が制定された。
行政手続は,大別すると公正取引委員会の審判手続のように司法手続に近い慎重な手続を求める事実審型聴聞と都市計画法が定める公聴会のような陳述型聴聞があるが,行政手続法は事前行政手続のすべてを定めるのではなく,さまざまな経緯から,行政決定過程の現状において行政の公正性,透明性について問題の多い許認可等の申請に対する処分,不利益処分および行政指導について,それぞれ共通的な手続を定めるにとどめている。その内容は,申請に対する処分については審査基準の作成とその公表,標準的処理期間の決定とその公表,申請を拒否する処分をする場合の理由の提示等を定め,不利益処分については処分基準の作成,処分手続として聴聞または弁明の機会等を定めている。また行政の不透明性のシンボルとして内外からの不満の強かった行政指導については,相手方の協力によってのみ実現されるものであるとする行政指導の限界を明確にし,相手方の意思に反した行政指導の継続の禁止,処分権限にもとづく行政指導の事実上の強制の禁止等の一般原則を定めるとともに,相手方に対して行政指導の趣旨,内容,責任者を明確にし,相手方から指導内容について要求がある場合の書面の交付等の行政指導の方式について定めている。その他行政実務で問題の多い届出についても定めている。同法は地方自治を尊重する立場から,行政手続条例の制定については各地方公共団体の立法措置に委ねている。
→公聴会 →市民参加 →聴聞
執筆者:小高 剛
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(新藤宗幸 千葉大学法経学部教授 / 2007年)
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