衣縫部(読み)きぬぬいべ

精選版 日本国語大辞典 「衣縫部」の意味・読み・例文・類語

きぬぬい‐べきぬぬひ‥【衣縫部】

  1. 〘 名詞 〙 大化前代衣服裁縫仕事として朝廷に奉仕した部。漢・呉国から渡来した者の子孫
    1. [初出の実例]「衣縫の兄媛を以て、大三輪神に奉る。弟媛を以て漢の衣縫部(きぬぬひべ)と為」(出典日本書紀(720)雄略一四年三月)

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改訂新版 世界大百科事典 「衣縫部」の意味・わかりやすい解説

衣縫部 (きぬぬいべ)

裁縫に従事した大和朝廷の職業部。《日本書紀》によると応神14年,百済王は来目衣縫の祖たる縫衣工女を貢し,同37年に阿智使主(あちのおみ)らは呉に使して呉織(くれはとり),穴織(あなはとり)とともに呉衣縫,蚊屋衣縫等の祖の女を招来したとある。雄略14年にも同様な話がみえ,呉から身狭村主青が漢織(あやはとり),呉織とともに連れ帰った漢衣縫部の女は後の飛鳥衣縫部,伊勢衣縫の祖であると記す。以上の祖先伝承から衣縫部が百済系,呉系,蚊屋(伽耶,加羅)系渡来人を中心に編成されたことがわかる。なお《新撰姓氏録》には石上氏同祖と称するものもあるが仮冒偽称)であろう。伴造(とものみやつこ)は造(みやつこ)姓で大蔵衣縫造,内蔵衣縫造等の名がみえ,各地の部民を率いて大蔵や内蔵に上番したものであろう。部の分布は大和,和泉,伊勢,播磨等にみられる。令制では大蔵省縫部司中務省縫殿寮があり,その職務を引き継いでいるが,大宝令制の縫部司縫女部は〈十戸,経年女役〉とあって,なお衣縫部使役形態の伝統を残していた。
服部(はとりべ)
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「衣縫部」の意味・わかりやすい解説

衣縫部
きぬぬいべ

古代宮廷の裁縫に従事した。漢衣縫部(あやのきぬぬいべ),飛鳥衣縫部,伊勢衣縫部などがあり,その多くは,5世紀前後に百済から渡来した渡来人。日本古来の衣縫部も存在した。令制(→律令制)では,大蔵省管轄下の縫部司と,中務省管轄下の縫殿寮に所属する。

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世界大百科事典(旧版)内の衣縫部の言及

【部民】より

… まず伴として,畿内の中小豪族を任ずる殿部(とのもり)(天皇の乗輿,宮殿の調度,灯火をつかさどる),水部(もいとり)(供御の清水や氷をつかさどる),掃部(かにもり)(殿内の掃除をつかさどる),門部(かどもり∥かどべ)(宮殿の諸門の守衛をつかさどる),蔵部(くらひと)(内蔵,大蔵の出納をつかさどる),物部(もののべ)・佐伯部(さえきべ)(軍事・警察,刑罰をつかさどる)などがあった。部として,畿内やその周辺に居住する帰化氏族,その他を任ずる錦織部(にしこり∥にしごりべ)(絹織物の生産に従う),衣縫部(きぬぬい∥きぬぬいべ)(衣服の縫製に従う),鍛冶部(かぬち∥かぬちべ)(鉄と兵器の生産に従う),陶作部(すえつくり∥すえつくりべ)(陶器の製作に従う),鞍作部(くらつくり∥くらつくりべ)(馬具の製作に従う),馬飼部(うまかい∥うまかいべ)(馬の飼育に従う)などがあった。このように下部組織を形成する伴や部を〈トモ〉ともいい〈ベ〉ともいうのは,百済の官司の諸部の制度を輸入して朝廷の政治組織を革新したとき,朝廷の記録をつかさどっていた百済の帰化人=史部(ふひと∥ふひとべ)が,本国の習慣に従い,漢語の〈部〉とその字音の〈ベ〉を,日本の〈伴〉の制度に適用したために生じたとみるのが正しいであろう。…

※「衣縫部」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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