令制で太政官の下で国務を分掌する八省の一つ。天皇に侍従し,詔勅の文案の審署,上表の受納,国史の監修,女官の名帳・考叙・位記,諸国の戸籍・租調帳,僧尼の名籍をつかさどる。総じていえば天皇の秘書の官で,唐の中書省に近似するが,地位はそれほど高くない。職員は卿,大輔・少輔,大丞・少丞,大録・少録の四等官のほか,侍従,内記(大中少),監物(けんもつ)(大中少),主鈴(しゆれい)(大少),典鑰(てんやく)(大少)や史生,内舎人,使部,直丁などが所属し,八省中最大の規模を持つ。したがって長官・次官たる卿・輔の相当位も他の7省より各1階高いとされる。その起源は飛鳥浄御原令にあると推定されるが,詔勅の起草に当たるところからしだいに権威を高め,その地位も向上した。しかし藤原氏の政界制覇とともにその重要性も薄れ,平安朝以降はもっぱら親王をもって任ずる名誉職となり,人臣を任ずることはまれであった。
省のもとに中宮職,左右大舎人(おおとねり)寮,図書(ずしよ)寮,内蔵(くら)寮,縫殿(ぬいどの)寮,陰陽(おんみよう)寮と,画工,内薬,内礼の3司があった。
執筆者:黛 弘道
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令(りょう)制に規定された中央官司。太政官(だいじょうかん)に属した八省の一つで、中宮職(ちゅうぐうしき)および左右舎人(とねり)・図書(ずしょ)・内蔵(くら)・縫殿(ぬいどの)・陰陽(おんみょう)の6寮、画工(えたくみ)・内薬(うちのくすり)・内礼(ないらい)の3司を管した。天皇の国事行為や後宮(こうきゅう)関係の政務に携わり、とくに詔書・勅旨の作成に関し、天皇の意を受けて起案し、覆奏して施行許可をとり、卿(かみ)・大少輔(だいしょうすけ)が署名のうえ、太政官に送る要務にあたった。浄御原令(きよみはらりょう)では中官(なかのつかさ)とよんだらしい。侍従、内舎人(うどねり)、内記、監物(けんもつ)などの官人を擁して、天皇印、鍵(かぎ)、駅鈴、伝符や戸籍を管理した。天皇に近侍し、卿、輔の官位相当は、他省より一階高かったが、平安初期以後、卿に親王を任ずるようになった。奈良中期、一時信部省(しんぶしょう)と改称した。
[八木 充]
大宝・養老令制の官司。八省の一つ。天皇への近侍,勅命の起草および外部への伝達,臣下の上表の天皇への伝達,国史の編纂の監修,天皇に仕える女官の統轄などがおもな職掌。品官(ほんかん)には侍従・内舎人(うどねり)・内記・監物(けんもつ)・主鈴・典鑰(てんやく)などがあり,天皇の側近としての職務を担った。中宮職・図書(ずしょ)寮・内蔵(くら)寮・縫殿(ぬいどの)寮・陰陽(おんみょう)寮・画工司・内薬司・内礼司など多くの諸司を被管にもつ。大宝令以前に前身官司として中官があったとする説もあるが,浄御原令(きよみはらりょう)制にはなかった可能性が高く,品官や被管官司も独立して存在した。大宝・養老令制では官員の官位相当が高く,他の7省より上格だったが,実質的な職務は少なく,名誉職的であった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…日本古代の律令制の官庁組織をいう語。狭義には太政官(だいじようかん),神祇官(じんぎかん)の二官と中務(なかつかさ)省,式部(しきぶ)省,治部(じぶ)省,民部(みんぶ)省,兵部(ひようぶ)省,刑部(ぎようぶ)省,大蔵(おおくら)省,宮内(くない)省の八省を指すが,広義には,この二官・八省に統轄される八省被管の職・寮・司や弾正台(だんじようだい),衛府(えふ)などの中央官庁および大宰府(だざいふ)や諸国などの地方官庁を含む律令制の全官庁組織の総体をいい,ふつうは後者の意味で用いる。このような官庁組織は,7世紀後半から8世紀初めにかけて形成された。…
※「中務省」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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