中国古代の伝説上の女性。西周王朝最後の王である幽王の愛妾(あいしょう)。夏(か)王朝末期、朝廷に二匹の竜が現れてよだれを残して去ったが、このよだれは長く櫃(ひつ)の中にしまわれて西周王朝の厲(れい)王のときに開かれた。するとそのよだれはいつのまにか黒い亀(かめ)と化し、これに出会った幼女が妊娠してやがて生まれたのが褒姒であると伝えられている。のちに幽王の寵愛(ちょうあい)を受けるようになった彼女は、一度も笑ったことがないため、幽王は彼女を笑わせようと八方に手を尽くした。ところが褒姒は、あるとき敵の来襲を知らせるのろしがあがるのを見た諸侯が息せききって駆けつけるようすを見て、初めて笑った。このため王は、彼女を笑わせるためにたびたび嘘(うそ)ののろしをあげたので、ついに諸侯はこれを信じなくなり、本当に外敵が攻めてきたときにはひとたまりもなく西周王朝は滅んでしまった。そして幽王は驪山(りざん)の麓(ふもと)で殺され、褒姒は敵に連れ去られたという。紀元前771年の事件とされているこのエピソードは、夏王朝の妹喜(ばっき)や殷(いん)王朝の妲己(だっき)と並んで、女性が国を滅ぼすという考え方を伝説の形で表現したものであり、歴史的な事実と断定することはできない。
[桐本東太]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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