見通し外通信(読み)みとおしがいつうしん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「見通し外通信」の意味・わかりやすい解説

見通し外通信
みとおしがいつうしん

送受信アンテナが互いに見通せない距離にあるような伝搬通路で行う通信をいう。over the horizon communication、略してOTH通信またはOH通信ともいう。ただし、長波中波短波電波は、地表波として、あるいは電離圏からの反射波として見通し外の距離まで伝搬する性質があるが、このような伝搬形式を利用する通信は、普通、見通し外通信といわない。また、紛らわしい用語例として、短波の電離圏反射波を用いて数千キロメートルも遠方の飛翔(ひしょう)体を探知するレーダーOTHレーダーとよばれているので注意を要する。

 見通し外通信は伝搬機構によって次のように大別される。(1)対流圏散乱通信 超短波からマイクロ波の電波を用い、対流圏(地表から高度約10キロメートルまでの大気領域)内の大気の乱れによる電波の散乱現象を利用して、数百キロメートルの距離の通信に実用される。(2)電離圏散乱通信 50メガヘルツ程度の超短波を用い、下部電離圏(70~90キロメートルの高さにある大気圏)内の大気の乱れによる電波の散乱現象を利用した方式で、1000キロメートル程度の地表距離の通信に適する。(3)流星散乱通信 50メガヘルツ程度の超短波を用い、流星の飛跡に沿って下部電離圏内にできた濃い電離柱を反射体とし、1000キロメートル程度の距離において、短時間(数秒以下)で間欠的ではあるがデータ伝送を行う。(4)山岳回折通信 送受信点間に山や島がある場合に、それによる電波の回折現象を利用し、数百キロメートルの距離の通信を行う。

 見通し外通信の伝搬損失は一般に非常に大きいので、利得を大きくとる必要がある。したがって、大型アンテナ(直径10~20メートル程度)、大電力送信機(10キロワット程度)および低内部雑音の受信機で通信系を構成しなければならない。現在日本で実用に供している大規模な見通し外通信には、(1)日本と韓国間の約260キロメートルの伝搬通路において、1.7ギガヘルツの電波により運用している対流圏散乱の多重電話回線、(2)九州から奄美(あまみ)大島の約340キロメートル、奄美大島から沖縄の約200キロメートルの距離において、約二ギガヘルツの電波により、それぞれの伝搬通路の途中にある中之島、徳之島を回折体として利用し、多重電話やテレビジョン信号を伝送している山岳回折通信回線、などがある。

[若井 登]

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改訂新版 世界大百科事典 「見通し外通信」の意味・わかりやすい解説

見通し外通信 (みとおしがいつうしん)
over-the-horizon communication

通常のマイクロ波通信が送信点と受信点との間に障害物がなく相互に見通しがあるのに対して,送受信点間が遠距離のため,地表面が球面である影響や山岳などにより見通しの得られない地点間で用いられる通信をいう。100~数百m2の反射鏡面積を有する大型アンテナ,数kWから10kW程度の大出力送信機,低雑音のダイバーシティ受信機などを必要とするが,途中の伝搬損失が大きいため,電話回線数にして120以下の小容量通信または低品質のテレビジョン信号伝送などに限られる。伝搬の機構により,対流圏散乱伝搬と,山岳の稜線などに電波を当て,回折によって電波を受信する回折伝搬に分かれる。前者は上方の大気に向けて電波を発射し,大気の不均一性による散乱現象により電波を受信するもので,見通し外通信はこの方式が多い。見通し外通信は衛星通信が普及する以前において,短波帯よりは到達距離は最大約500~600kmと短いが伝送容量が多いため,軍事施設や発展途上国などで1960年代に世界各地で設置された。しかし品質が悪くかつ季節変動があるため,衛星通信などに逐次代替されつつあり,現在ではバックアップ回線その他特殊な用途以外にはあまり用いられなくなった。日本でも九州と奄美大島間350kmに山岳回折(中之島)により1961年初めて24回線の公衆通信回線が設置された。なお,現在沖縄~南大東島間には公衆回線として対流圏散乱方式が運用されている。
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