改訂新版 世界大百科事典 「季節変動」の意味・わかりやすい解説
季節変動 (きせつへんどう)
seasonal variation
経済変数が毎年毎年1年の中でほぼ決まった形で示す変動のこと。例えば日本における賃金の支払額は毎年決まって6月,7月,および12月に高くなる(大半の企業のボーナス支給月にあたるため)。このような意味で季節変動は1年の中の変化のパターンとしてはほぼ決まっているものであるが,6月の賃金支払額が毎年1月のそれにある定まった数値をかけて得られるというほど厳密なものではない。また季節変動のパターン自体は春夏秋冬の移り変りのような自然現象に起因していることが多いが,それに対応してどのような社会的慣習,経済的制度が形成されるかによって変化しうるものである。季節変動を示す典型的なものとしては,ほかに百貨店の売上げや日銀券発行高などがある。経済変数のやはり短期的な変動である景気変動との大きな違いは,季節変動については,いつどのような変動が起こるかということが前もってかなりはっきりとしており,人々の経済行動もこれを組み入れたものとなっているのに対して,景気変動については,好況や不況になるタイミングがはっきりせず予備的行動がとりにくいということである。もう一つの重要な違いは,季節変動のパターンはどの変数を考えるかによって大きく異なるのに対して,景気変動はマクロの主要な経済変数がほぼ同時に変化する現象であることである。
季節変動のパターンは経済分析に際してしばしば外生的なものとされ,分析に先だって取り除かれることが多い。季節変動を取り除く(このことを〈季節調整seasonal adjustment〉,季節調整済みの数値を〈季節調整値〉という)方法は大別すると2種類ある。一つは経済データを作成する政府系機関等がよく用いるもので,考える変数の原系列を適当な長さの移動平均で割って季節指数を求め,さらにこれを年間平均が100になるように調整したうえで,原系列に適用することによって季節変動を除去した系列が求められる。これに対して,回帰分析を用いる方法も存在する。考えている変数の中・長期的な変動を説明する変数とともに,季節ダミーを回帰式の右辺に導入し,季節変動の部分を後者によってとらえようとするものである。統計学的には後者の方法のほうがよい性質をもつことが知られている。
執筆者:植田 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報