視覚障害者誘導用ブロック(読み)しかくしょうがいしゃゆうどうようぶろっく

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

視覚障害者誘導用ブロック
しかくしょうがいしゃゆうどうようぶろっく

視覚障害者の単独歩行を安全に誘導するため、歩道、駅構内の通路などに敷設されているブロック。財団法人安全交通試験研究センター初代理事長の三宅精一(みやけせいいち)(1926―82)が1965年(昭和40)に考案した。通常、いわれる「点字ブロック」は同センターの登録商標であり、それ以外のものは「視覚障害者誘導用ブロック」が正しい表現である。

 盲人などの視覚障害者がひとり歩きするとき、杖(つえ)のほかに足の裏の触覚を利用できるよう、ブロック(30センチメートル角)の表面に点状あるいは線状の突起を施している。ブロックは、位置表示(停止・方向転換)用の点状ブロックと誘導用の線状ブロックとに大別される。色は、弱視者が識別しやすいように黄色が標準とされている。1970年代における障害者の「生活圏拡大運動」「福祉まちづくり運動」とともに、全国の歩道、主要交差点、公共建築物、鉄道駅などに使用されるようになった。

[日比野正己・森すぐる]

普及の契機

1972年、東京都の日本国有鉄道国鉄)山手線高田馬場駅で全盲の男性がプラットフォームから線路に転落し、到着した電車とホームの間にはさまれて死亡した。その事故では、プラットフォーム上に誘導用ブロック等の安全設備が施されていないことが事故を招いたとして、遺族による国家賠償請求訴訟が取り組まれ、一審で遺族側勝訴となり、二審で和解した。一方、1973年に大阪府の国鉄大阪環状線福島駅で発生した弱視者の転落重傷事故では、同駅の視覚障害者の利用が少ないこと、および事故発生当時、誘導用ブロックが普及途上であったことから、最高裁判所が原告勝訴の高裁判決を差し戻している。

 これらの訴訟等を契機に、鉄道駅のプラットフォームへの誘導用ブロックの敷設が進んだ。『国土交通白書』などの資料によれば、1975年には国鉄全体で76駅にすぎなかった誘導用ブロック設置駅は1980年には390駅、分割・民営化後の1990年(平成2)には1610駅に達した。2005年にはJR、大手民営鉄道あわせて2309駅に設置され普及率は83.3%となっている。

[日比野正己・森すぐる]

JISによる規格化

誘導用ブロックは歩道や駅等の公共施設に普及していったが、2001年にJIS規格で定められるまでは、色彩や大きさ等が統一されておらず、製作メーカーや敷設者による差が大きかった。このため千葉県では、1992年に突起部分のみに彩色されたブロックは弱視の視覚障害者の安全な歩行を保障しない「人権侵害」であるとして、人権救済の申立てが行われた。

 なお、誘導用ブロックは、海外にも普及しており、ISO国際標準化機構)において「歩行者領域における視覚障害者誘導のための設備と方法」として誘導用ブロックの標準化が審議されている。

[日比野正己・森すぐる]

『日比野正己著『福祉のまちづくり』(1978・水曜社)』『藤田真一著『盲と目あき社会』(1982・朝日新聞社)』『岩橋英行著『白浪に向いて――三宅精一を語る』(1983・安全交通試験研究センター)』『樗木武・梶田佳孝著『道路の計画とデザイン――ユニバーサルデザインの道づくり』(2004・共立出版)』『日比野正己監修『NEWボランティア用語事典』(2005・学習研究社)』

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