日本大百科全書(ニッポニカ) 「誘起効果」の意味・わかりやすい解説
誘起効果
ゆうきこうか
inductive effect
有機化合物の反応性は、その化合物の電子状態、ことに電子密度やその変化の仕方により理解される。このような考え方(この考えが確立されるまでは有機化学反応の電子論とよばれた)で、分子内のある置換基が飽和結合(σ(シグマ)結合)を通して反応部位に電子を供給あるいは吸引する効果で、感応効果ともいう。たとえば、酢酸の酸解離定数はそのメチル基の水素の1個、2個および3個を順に塩素で置換する順、すなわちH3CCO2H,ClCH2CO2H,Cl2CHCO2H,Cl3CCO2Hの順に増加する。これは、塩素の電気陰性度が炭素よりも大きいため、メチル基側からσ結合を介して電子を吸引するため、カルボン酸が解離しやすくなる結果である。
[徳丸克己]