読書指導(読み)どくしょしどう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「読書指導」の意味・わかりやすい解説

読書指導
どくしょしどう

児童・生徒に読書力を習得させ、読書生活を豊かにさせるための指導。わが国の国語教育界では、読書指導について、明治期・大正期・昭和前中期(1960年代まで)を通じて、読書の方法・技能を習得させ、読書効率をあげさせることを目ざした教育(指導)営為と考えられてきた。しかし、昭和後期(1970年代から)は、学習指導要領(昭和43年版)にも読むことの指導事項として読書指導が取り上げられるようになり、読書指導は読書生活を高め、豊かにさせるための教育活動としてとらえられるようになった。児童・生徒ひとりひとりの読書生活のあり方が指導の対象に据えられるようになった。

[野地潤家]

目標

究極には、読書生活の確立、読書人格の形成に求められる。さらにいえば、ひとりひとりが読書人として個性読み(読み手として、ひとりひとりその人らしい独自の個性的な読み=読書ができること)を確立することが望まれる。したがって目標とするところは、(1)読書力の育成、(2)読書生活の向上である。(1)は、書物図書)に親しみ、進んで積極的に読書をしていく態度や習慣を養い、自ら目的や必要に応じて適書を選択し読みこなしていく態度や能力を伸ばしていくようにすること。(2)は、読書人として、自らの読書生活を意欲的に計画的に設計し、自らの生活経験や活動を豊かなものにさせることであり、情報化社会に生き抜いていける読書生活を目ざさせることである。

[野地潤家]

領域

通例、三つに分けられる。すなわち、(1)読書への導入的指導、(2)読書の展開的指導、(3)読書の治療的指導である。(1)は、児童・生徒の読書生活の実態、とくに読書意欲、読書習慣、読書能力、読書興味、読書環境などの実態をとらえ、読書しようとしない児童・生徒を、どのようにして読書させるようにしていくかを中心課題とする領域。(2)は、読書する習慣、能力、態度をもった児童・生徒を対象として、さらに読書力を伸ばし、読書人格の形成を目ざして指導をしていく領域。(3)は、読書困難児・読書異常児のように、読書活動に欠陥を有し問題をもっている児童・生徒に対して、正常な読書がなされるように臨床的・治療的指導を進めていく領域である。

[野地潤家]

課題

活字離れの著しい現代社会にあっては、読書指導の抱える課題は深刻で切実である。テレビ視聴に多くの時間を割いている児童・生徒たちに、テレビ番組の視聴の仕方を指導すると同時に、読書の真の楽しみ、喜びをどのようにして発見させ、読書生活の確立をどのようにして図らせるかは、もっとも大きな課題である。また家庭における幼児期の読書指導をどうするか、学校における児童期、少年少女期、青年期の読書指導をどうするか、さらに社会における成人期、老年期の読書指導をどうするかも重要な課題である。読書指導が生涯教育の見通しのなかに位置づけられ、家庭、学校、図書館公民館職域など、それぞれの読書活動、読書生活に役だてられることが望まれる。

 1966年(昭和41)から80年にかけて、中学生を対象にした読書指導が、当時東京都大田区石川台中学校教諭であった大村はま(1906―2005)によってなされ、創意工夫にあふれた実践を結実させて注目された。爾来(じらい)、読書生活を設計させ、しっかりした読み手(読書人)を育てていくための指導の仕方が積極的に求められ開発されつつある。また、親子読書をはじめ読書会活動も意欲的に行われている。学校教育における読書指導、家庭における読書生活、社会における読書運動が緊密に協力しあって、豊かな実りをもたらすように努めていくことこそたいせつな課題となる。学校図書館・公共図書館の整備と普及も大きい課題である。学校図書館の整備充実に関しては、司書教諭の配置、蔵書数の確保、学習資料の収集・活用など、それぞれに意欲的に取り組まれている。今後の課題の一つとしては、インターネットを使って読書を楽しむホームページの活用を視野に入れた、無料公開の電子図書館のことも注目されよう。

 1988年に、千葉県船橋市船橋学園女子高等学校で、全校生徒が毎朝10分本を読む「朝の読書」が始められ、この読書への取組みは、全国的に大きい反響をよんだ。爾来、「朝の読書」の輪は全国的に広がって、新しい読書活動が営まれ、成果があげられたことが報告されている。

[野地潤家]

『滑川道夫著『現代の読書指導』(1976・明治図書出版)』『野地潤家著『個性読みの探究』(1978・共文社)』『大村はま著『大村はま国語教室第7巻 読書生活指導の実際1』『大村はま国語教室第8巻 読書生活指導の実際2』(1984・筑摩書房)』『市毛勝雄・須田実・野口芳宏編『読書の指導』(1993・明治図書出版)』『村石昭三編『国語教育基本論文集成18 国語科読書指導論』(1993・明治図書出版)』『船橋学園読書教育研究会編著『朝の読書が奇跡を生んだ――毎朝10分、本を読んだ女子高生たち』(1993・高文研)』『府川源一郎・長編の会編『読書を教室に 小学校編――「読み」の授業を変えよう』『読書を教室に 中学校編――「読み」の授業を変えよう』(1995、1996・東洋館出版社)』『増田信一著『読書教育実践史研究』(1997・学芸図書)』『府川源一郎・高木まさき・長編の会編『「本の世界」を広げよう――文化を生み出す国語教室』(1998・東洋館出版社)』『林公編著『心を育てる朝の読書』(1999・教育開発研究所)』『小森茂・浜本純逸編『生きてはたらく国語の力を育てる授業の創造 第9巻 進んで本を読み読書に親しむ学習指導』(2000・ニチブン)』『マーガレット・ミーク著、こだまともこ訳『読む力を育てる――マーガレット・ミークの読書教育論』(2003・柏書房)』『村上淳子著『本好きな子を育てる読書指導――読みきかせとブックトークを中心に』(2004・全国学校図書館協議会)』『笹倉剛著『子どもの未来をひらく自由読書――関心をひきだす読書指導のコツ』(2004・北大路書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「読書指導」の意味・わかりやすい解説

読書指導 (どくしょしどう)

広く,読書を通じた人間形成一般と同義で用いられることもあるが,通常は,読書による人間形成をめざした,読書能力,読書興味,読書習慣,書物選択能力などの発展のための意図的働きかけを指して使われる。文庫や図書館などの読書環境の整備もそこに含まれる。かつての時代と異なり,現代では読書は単に修学のためだけでなく,実用目的や娯楽目的のためにもなされ,また文字以外の文化伝達の手段も多様に発達しているため,読書の人間形成に果たす役割は変化してきていると考えられる。しかし読書という文化伝達=獲得の様式は,他の様式に比べてはるかに抵抗が大きい。したがってその抵抗に抗して行われる読書行為のなかで育つ諸能力や人格,たとえば,(1)人生で直面する諸問題や疑問を自力で解決しようとして育つ自主性,(2)親から精神的に自立していこうとするなかで育つ社会的能力,(3)欲求不満や葛藤に耐え,それを昇華しようとするなかで育つ情操,(4)善悪二分法的な人間観から解放されていくなかで育つ深い人間理解力,(5)先哲の言葉を繰り返し味わい考えるなかで育つ自己意識と自己への誠実さなどは,他の文化媒体を通じては容易に得られないものであり,その意味で読書のもつ人間形成力は今後いっそう重視されてくるであろう。読書指導は一生を通じて行われるべきものであるが,感じやすい幼児期から小・中学生期に,文字や文に興味をもち,それによって世界が開かれてくるよう適切な働きかけを行い,読書習慣を確立させることが,もっとも効果的と考えられる。読書指導には読みのレディネスの促進,読書への動機づけのくふう,読み聞かせ(読み語り)などの導入的読書体験などがその前提として必要であるが,読書興味そのものは子どもの興味や個性に応じて多様であるため,一斉指導は困難であり,きめ細やかな個別指導が配慮される必要がある。そのために学級文庫や図書館の充実が必要となると同時に,親や教師が単なる良書主義ではない児童読物への関心を持ち続けることがたいせつとなろう。親子読書運動などが広がりをみせているが,より大きくは,社会的規模での児童読物への教育学的批評が進められねばならない。
国語教育
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「読書指導」の意味・わかりやすい解説

読書指導
どくしょしどう

読書の能力,態度の指導と習慣の形成を意図する教育的活動。学校では国語科の一領域とされているが,教科外の指導における重要な課題であるとともに,広く家庭や社会の教育上の問題でもある。学校では,それらの基本を養うものとして,文学教育,図書の選択能力,読書の仕方,読書の質と量を拡大する態度の指導,図書館の利用指導を内容とする。読書を通じて知的,情操的な発達とともに自主性を高め,自己変革の力を育てることが望まれる。

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図書館情報学用語辞典 第5版 「読書指導」の解説

読書指導

子どもの発達に応じて,文字を読むだけではなく,適切な読書への動機付けを行って,文章を鑑賞し読書能力を高め,それによって自己の生活を充実させ,ひいては子どもの人格を望ましい方向へ導くとともに社会に適用していく能力を身に付けさせること.

出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報

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