教育・学術・文化に関する事業を行う地域社会教育施設。第二次世界大戦以前にも、公民館と称する施設があったが、社会教育施設として全国的に普及するきっかけになったのは、1946年(昭和21)7月、当時の文部次官通牒(つうちょう)で、各町村への設置が促されたことによる。1949年に制定された社会教育法では、市町村立と法人立の公民館についての条項が設けられた。そこでは、公民館の目的として「市町村その他一定の区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もって住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与すること」があげられている。
当初は、施設を欠き地域組織で活動を展開する、いわゆる「青空公民館」や、学校に併設される公民館も多く、機能としての公民館が目だったが、しだいに施設建設も進み、地域社会教育施設の典型とみなされるようになった。市町村立でなく地域の自治会等で所有する公民館は、法制上の公民館ではなく、自治公民館などとよばれ、公民館類似施設であるが、1959年の社会教育法改正で分館の規定が加わり、公立公民館の一部となる道が開かれた。同時に「公民館の設置及び運営に関する基準」が制定され、公民館は小学校区や中学校区等を勘案して設置されることなどが示された。
公民館の事業としては、講座・学級の開設、資料の提供、各種集会の開催などのほか、その施設を住民の利用に供することなどがあり、住民自治の力をはぐくむところとして注目されてきた。「教育委員会は、館長の任命に関して、あらかじめ住民代表等からなる公民館運営審議会の意見を聞かなければならない」という規定が設けられていたのも、法以前に、公選による公民館委員会によって館長の選任が行われることになっていたことが関係している。ただし、この規定は1999年(平成11)に、規制緩和の一環として廃され、「公民館の設置及び運営に関する基準」も簡素化された。
2008年現在、法に基づく公民館は全国で約1万7000あり、中学校の数を上回る。職員数は館長を含めて約5万2000人で、そのうち中心となる公民館主事は1万7000人と1館あたり平均1人程度である。専門職員である公民館主事の資格要件が法で定められていないこととあわせて問題になっている。とくに古くからの大都市で公民館体制が不十分なところが目だつ。
[上杉孝實]
『小林文人編『公民館・図書館・博物館』(1977・亜紀書房)』▽『寺中作雄著『社会教育法解説 公民館の建設』復刻版(1995・国土社)』▽『日本社会教育学会編『現代公民館の創造――公民館50年の歩みと展望』(1999・東洋館出版社)』▽『坂井知志・山本慶裕編著『公民館事業Q&A』(2000・ぎょうせい)』▽『日本公民館学会編『公民館・コミュニティ施設ハンドブック』(2006・エイデル研究所)』
地域社会に立脚し,住民自身が日常生活上の諸問題の研究や学習活動をすすめるとともに,地域住民の文化活動や交流・連帯をはかる教育文化施設。図書館,博物館とともに,日本における代表的な社会教育施設である。教育基本法および社会教育法に根拠をもつ教育機関(地方教育行政の組織及び運営に関する法律30条)であって,市町村およびそれより狭域の日常生活圏域が設置単位とされている。1946年文部省の設置奨励の通牒(つうちよう)によって全国的に普及をみたが,当時ねらわれていたところは,第2次大戦後の日本社会の民主化と,日常的な社会生活や人間関係の民主化と合理化であった。そのため地域住民の自主的な教育・学習・文化・スポーツ・レクリエーション活動など多彩な事業が試みられ,再生復活した青年会,婦人会などがその担い手となるとともに,復員青年の学習の場・農業技術研修の場,保健衛生思想普及の場として,大衆的な啓蒙,学習活動の拠点として各地にひろがった。49年の社会教育法によって根拠をえたのちは,地域的な個性が失われたり逆に行政機関の援助の度合が格差を生むようになり,その発展は全国的に均一的なものではない。
公民館の機能は,住民の(1)広場,たまり場,(2)学習の場,(3)交流・連帯の場としてとらえられ,したがって施設・設備の点においても職員配置の点においてもそれにふさわしい水準が求められ,これまでも全国公民館連合会をはじめとする関係者からの提言も重ねられているが,法律上必置でないためその振興策は国においても都道府県においても十分でない。(1)については,ロビーや展示資料のくふうが,(2)については日常的・地域的な関心から系統的な学習へ発展するようなくふうとその企画運営への住民の参加が,(3)については差別ない利用条件によって住民相互の学びあいと高めあいが,それぞれ期待されているところであり,そのためには見識と力量をそなえた専任職員の複数設置が不可欠である。加えて一定の設備の整備が,住民の利用をうながし活動の活発化に役立つようにくふうされる必要があり,ホールや体育施設,調理・実験室などのほか,保育室を付設して若い母親の参加をたすけている例も少なくない。その運営における住民参加の原則は他に例をみない特色がある。学校長と学識経験者のほか,地域の教育・文化・産業・労働・福祉などの各領域から選出されて構成される公民館運営審議会は,館長の諮問機関であるが,地域住民と密着した館運営が期待されているため,教育委員会は館長の任命に先立って当審議会の意見を聞くことが義務づけられている。
カルチャー・センターやスポーツ教室の隆盛とコミュニティ・センターによる住民交流の場の誕生という状況のなかで,公民館はその独自な機能が問われているが,住民参加により住民の求める教育・文化事業を自立的な教育機関として担いうるという意義は,政府・財界主導の生涯教育政策や,〈行政改革〉による条件の困難が増すなかでも,自主的で豊かな自治能力を国民自身が形成する拠点として,今後もますます大きくなろう。
→社会教育
執筆者:島田 修一
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(新井郁男 上越教育大学名誉教授 / 2007年)
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…この状況下では,民衆自身の手による開放事業は,既存の学校施設の利用ではなく,労働学校,農民学校,自由大学などの自主的な運動の形態をとらざるをえなかった。第2次大戦後は,文部省も大学・専門学校の開放による民衆大学の創設を試みたが十分な展開はみられず,民衆のための学習・文化活動振興の拠点は市町村の公民館におかれていった。学校開放の事業は,学校教育法(85条),学校図書館法(4条2項),社会教育法(6章)が奨励するところであるが,近年学童保育施設や社会教育施設の併設,校庭・体育館・プールの開放など,子どもの学校外教育活動や地域住民の学習・文化活動振興のための利用がはかられている。…
…
[活動の形態]
社会教育活動の形態は,施設による事業,団体による活動,大学など学校教育機関の開放,の三つに大きく分けられる。まず公民館,図書館,博物館などの場合,専門職員を配置して,施設・設備,図書,資料,展示物などの利用サービスの提供,市民大学,婦人講座,青年教室などの学習活動の主催,各種の研究集会や文化行事の開催,あるいはグループ活動の相談・助言にあたるなどの機能をはたしている。近年は,公立施設の運営や事業の企画・実施に住民参加をとり入れ,受動的な利用でなく,活動内容の自主的創造をめざす動きもすすんでおり,体育施設においても,指導サービスや自主グループ育成がこころみられているが,他方,青少年の団体活動訓練の場としての性格をもった青年の家,少年自然の家もある。…
…1949年公布,7章と付則から成る。第1章(総則)においては,まず第1条で〈教育基本法の精神に則り〉とうたうことによって,個人の成長発達と憲法理念の実現を担う資質の形成に役立つよう,学校以外の領域でひろく教育機会が保障されるべきことを示し,第3条で社会教育が自主性を本質とし,行政機関がその振興のための環境醸成に努めることを定めるほか,第3章(社会教育関係団体)で国民の自主活動の自由の保障,第4章(社会教育委員)で住民代表による社会教育行政への参加の保障,第5章(公民館)で日常生活圏域内におかれ,住民がその運営に参加する教育文化施設としての公民館の設置と運営の原則をそれぞれ明示している。なお,第2章の専門的教育職員としての社会教育主事を定める規定が51年に追加され,59年にはその市町村段階までの必置,民間団体への補助金支出禁止解除など,行政指導強化の方向をもった改正がなされている。…
※「公民館」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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