日本大百科全書(ニッポニカ) 「諸鈍芝居」の意味・わかりやすい解説
諸鈍芝居
しょどんしばい
奄美(あまみ)諸島の加計呂麻(かけろま)島に伝承する民俗芸能。鹿児島県大島郡瀬戸内町諸鈍の大屯(おおちょん)神社(祭神は平資盛(たいらのすけもり))の祭り(重陽と十五夜)に演じられたが、今日では不定期。地元民は「シバヤ」とよぶ。踊り、狂言、人形芝居の3部からなり、少なくとも中世末の古風を残すものと考えられる。演者はまず海で禊(みそぎ)を済ませて、囃子(はやし)もにぎやかに神社(みゃー)に右手右足、左手左足のナンバの振りで練り込む。最初は「サンバト」で、シルクハット状の帽子に羽織・袴(はかま)で紙面(かびでいら)という白式尉(はくしきじょう)の面をつけて唐団扇(とううちわ)で出る。翁(おきな)と三番叟(さんばそう)と沖縄の弥勒(みろく)の習合形らしい。踊りは、手踊の『兼好節』『シンジョウ(俊良または心中)節』『ダットドン(座頭殿)節』、太鼓踊の『高き山』、棒踊の『ククワ節』『スコテングヮ節』、鎌(かま)を持った『鎌踊』などがある。狂言は、美女を襲ったシシ(縫いぐるみの猪(いのしし)風のもの)を狩人(かりゅうど)が退治する『シシキリ』、人形芝居は、親不孝な娘が酒を飲んでいるところを大蛇が一のみにする『玉露(たまつゆ)』である。裾裂(すそわ)れの長い黒の胴着、白い長股引(ももひき)、仮面、笠(かさ)などの扮装(ふんそう)や人形芝居などから、日本本土脈、沖縄脈のほか、朝鮮半島の男寺党(ナムサダン)の芸能などとのはるかなる交渉がうかがわれる。国指定の重要無形民俗文化財。
[西角井正大]