三島由紀夫の長編小説。全4部から成り,1965年(昭和40)9月から71年1月まで《新潮》に連載。最終回は作者の自決の日に編集部に渡された。単行本は第1部《春の雪》,第2部《奔馬》(以上1969),第3部《暁の寺》(1970),第4部《天人五衰》(1971)に分けて新潮社刊。4部を通じて輪廻転生(りんねてんしよう)による生れ変りの物語のかたちをとり,第1部は主人公松枝清顕の悲恋をえがき美的理念としては〈たわやめぶり〉をあらわす。第2部はその生れ変りにあたる飯沼勲の政治的行為をえがき〈ますらおぶり〉の表現をめざす。第3部はその生れ変りにあたるタイの王女ジン・ジャンが登場し,わき役にあった本多繁邦が作品の表面に大きくあらわれ,第4部では次の生れ変りの安永透がにせ物であることに本多は気づく。老年で衰弱にいたった本多の姿の自己克服が,45歳で自決した作者の,文化蘇生への意思を示したものと考えられる。
執筆者:磯田 光一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
三島由紀夫の長編小説。1965年(昭和40)9月から『新潮』に連載、69~71年新潮社刊。全四巻。各巻が独自の主題をもつ。第一巻『春の雪』は悲恋を、第二巻『奔馬』は政治的反逆の悲劇を扱っていて、それぞれ「たおやめぶり」と「ますらおぶり」の精神を描く。またこの四部作は、輪廻転生(りんねてんしょう)によって主人公が夭折(ようせつ)して生まれ変わるという構成をとっている。第三巻『暁の寺』ではタイの王女として現れ、第4巻『天人五衰』では4人目の生まれ変わりの少年が本物でないことがわかる。結末の部分に感じられる虚無感のうちに、作者の晩年の心境の一端があったとみられる。三島の自決に至る最後の作品で、後期の代表作に数えられる。
[磯田光一]
『『豊饒の海』全四冊(新潮文庫)』
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