豚コレラ(読み)とんコレラ(英語表記)classical swine fever

精選版 日本国語大辞典 「豚コレラ」の意味・読み・例文・類語

とん‐コレラ【豚コレラ】

〘名〙 (コレラはcholera) ブタの急性伝染病の一つで法定伝染病。「コレラ」というが、実は英語で swine fever とよぶ病気のことで、人間のコレラとは別の病気。病原体ウイルスの一種で、高熱、後躯麻痺(脳炎)、下痢、脳炎を起こす。大腸粘膜のボタン状潰瘍を特徴とする。生ワクチンで予防するが、伝染力が極めて大きく、また野生イノシシも感染するので根絶がむずかしい。豚ペスト。ぶたコレラ。

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デジタル大辞泉 「豚コレラ」の意味・読み・例文・類語

とん‐コレラ【豚コレラ】

《「ぶたコレラ」とも》⇒シー‐エス‐エフ(CSF)

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知恵蔵 「豚コレラ」の解説

豚コレラ

豚コレラウイルスによる、豚とイノシシの感染症。人に感染することはない。また、コレラ菌が原因となる人のコレラとは関係はない。豚コレラに感染した豚肉が市場に出回ることはないが、仮に豚コレラに感染した豚の肉や内臓を食べても、人の健康に影響することはない。実験的には、マウス、モルモット、うさぎ、山羊、めん羊などの動物が一時的に豚コレラウイルスに感染することは知られているが、発病することはない。
豚コレラは、豚やイノシシに対する伝染力や致死性が高く、家畜の法定伝染病に指定されている。豚コレラウイルスに感染した豚は、発熱や食欲不振、元気がなくなる、うずくまるなどの症状から始まり、便秘に続く下痢、結膜炎、リンパ節の腫れ、呼吸障害、震え、起立困難などの多様な症状を示す。急性豚コレラの場合、一般的に発症から10~20日以内に死亡する。一方、発症回復を繰り返した後に30日程度で死亡するものを慢性豚コレラという。急性になるか慢性になるかは、ウイルスの株の違いだけでなく、月齢や品種、免疫状態など豚側の要因にも影響を受ける。
豚コレラウイルスは、感染した豚やイノシシの唾液(だえき)や鼻水、糞(ふん)に混じっているため、それらを介して感染が拡大する。また、ウイルスは発病した豚の血液や筋肉、内臓にも含まれる。そのため、発病した豚やイノシシの精肉やその加工品からも感染が広がることが知られている。
日本でも、かつては豚コレラが全国に蔓延(まんえん)していた。しかし、飼養衛生管理技術の向上や、日本で生ワクチンが開発され普及したことにより、1992年を最後に国内での発生は確認されなくなった。2006年4月からは、ワクチンの使用を完全に中止。翌年の4月に、日本は国際獣疫事務局(OIE)の規約に定められた、豚コレラ清浄国となった。
2018年9月、国内では26年ぶりに岐阜県の農場で豚コレラが発生した。農林水産省は殺処分、消毒などの防疫措置を講じたが、2019年12月現在、いまだ終息していない。当初、飼養豚には使用しないとしていたワクチンも地域限定だが接種が始まった。
岐阜県から発生した豚コレラは、19年に入り愛知県、長野県、滋賀県、大阪府、三重県、福井県、埼玉県、山梨県などの農場やその関連施設においても発生が確認された。
農水省が行った疫学調査によると、国内発生例で分離されたウイルスは中国または周辺国から侵入したウイルスと推定された。ただし、直接海外から農場にウイルスが入り込んだ可能性よりも、海外から野生イノシシ群にウイルスが侵入し、それが農場の豚に伝染した可能性のほうが高いとした。
そのため、農水省は野生イノシシ対策として、衛生管理の徹底、防護柵(さく)の設置支援、捕獲強化や経口ワクチンの散布を進めてきた。
一方、飼育豚の豚コレラの予防に関しては、「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」において、早期発見と、感染もしくは感染が疑われる豚の迅速な殺処分が原則とされ、予防的なワクチン接種は行わないこととされていた。豚コレラワクチンは、適切に接種すれば発症を防御することができるが、無計画かつ無秩序なワクチンの使用は感染した豚の存在を分かりにくくし、早期発見を困難にし、発生拡大の防止に支障をきたす恐れがある、というのがその理由である。
しかし、19年10月、「豚コレラウイルスに感染した野生イノシシから豚等への豚コレラ感染のリスクが高い地域を、ワクチン接種推奨地域に設定する」と防疫指針を改訂。群馬県、埼玉県、富山県、石川県、福井県、長野県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県がワクチン接種推奨地域として設定され、順次接種が始まった。
11月には豚コレラワクチンを接種した豚の出荷も始まったが、農水省は「ワクチンを接種した豚の肉を食べて、人の健康に影響があったという報告はない」と公表している。
また、農水省は、豚コレラの名称を「CSF(Classical swine fever)」に変更した。現在用いられている「豚コレラ」の名称が、ヒトの疫病であるコレラを想起させることから、不要な不安や不信を招かないようにすることを目的としている。同じ理由で、「アフリカ豚コレラ」も「ASF(African swine fever)」と名称変更した。

(星野美穂 フリーライター/2019年)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「豚コレラ」の意味・わかりやすい解説

豚コレラ
とんこれら

豚コレラウイルスの感染によっておこるブタの急性熱性伝染病。伝染力も致命率もきわめて高く、家畜法定伝染病に指定されている。

 この病原に感染すると、ブタあるいはイノシシは年齢、性、季節を問わず容易に発病する。感染は一般には接触感染で、消化器または呼吸器からの経路で侵入する。5~7日の潜伏期を経て、40~41.5℃の高熱を発し、元気消失、沈うつ、結膜炎、便秘、ついで下痢となり、歩様はふらつき、起立不能となって、後躯麻痺(こうくまひ)または四肢のけいれんをおこし、体表の各部に特徴的な出血斑(はん)を生じ、あるときは細菌性の肺炎などを併発し、急性死する。

 日本では、強毒株からの継代により作出された生ワクチンによって予防接種が施され、免疫効果のある予防法が行われていた。しかし、1992年(平成4)以来、国内での発生がないことから、1996年度より豚コレラ撲滅対策事業を進めている。これは3段階による防疫措置で、まず豚コレラワクチン接種の徹底を図り(第1段階)、本病の清浄化を確認した後、都道府県ごとにワクチン接種中止地域を検討、実施し(第2段階)、全国的にワクチン接種の中止(第3段階)を行うものである。その結果、日本は2007年4月から国際獣疫事務局(OIE)の規定に基づき、ワクチン接種をしない「豚コレラ清浄国」と認められている。治療としては有効な薬物はなく、家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号)および特定家畜伝染病防疫指針に基づき、発生があれば殺処分による防疫措置がとられている。

[本好茂一]

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改訂新版 世界大百科事典 「豚コレラ」の意味・わかりやすい解説

豚コレラ (とんコレラ)
hog cholera

ブタコレラともいう。豚コレラウイルスの感染によるブタの急性熱性敗血症性の伝染病。症状は激しく,死亡率が高い。ブタのほかイノシシも感染し,ほとんど同じ症状を呈する。潜伏期は一般に5~7日で食欲減退,高熱,結膜炎,便秘,ついで下痢となり,歩様はふらつき起立できなくなる。後軀(こうく)は麻痺,四肢のけいれんや遊泳運動などの神経症状を呈する。体表には限局性ないし瀰漫(びまん)性の赤紫斑が生ずる。妊娠ブタは流産する。豚コレラはアメリカから発生したと思われている。現在世界中に分布し,日本でもなん度も発症している。感染の経路は消化器と呼吸器からである。実験的には皮下,筋肉内,静脈内,脳内,経口,経鼻接種のいずれでも感染する。

 豚コレラは家畜法定伝染病に指定されており,本病が発生すると,接触ないし感染したブタに対し都道府県知事が殺命令を出すことができる。またその地域のブタの移動は禁止され,輸送も禁止され,豚舎,設備,器具,車両などは強い消毒剤で消毒されなくてはならない。予防にはワクチン接種が必要である。強毒株を継代して作出した株から,従来の欠点を補ったワクチンが作られ,現在日本で実用化されている。ただし野生のイノシシなどへの予防法が困難なことも,本病の絶滅を困難にしている。
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百科事典マイペディア 「豚コレラ」の意味・わかりやすい解説

豚コレラ【とんコレラ】

ブタコレラとも。ブタの家畜法定伝染病。病原菌はウイルスで経口感染する。41〜42℃の高熱が続き,食欲がなく,便秘に次いで下痢を起こす。脳が冒されて,けいれんや麻痺(まひ)することが多く,末期には体表の一部に紫斑が現れる。7〜10日でほとんど死亡。有効な治療薬はなく予防にはワクチン接種が必要。人には感染しない。
→関連項目ウイルス病

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「豚コレラ」の意味・わかりやすい解説

豚コレラ
ぶたコレラ
swine fever; hog cholera

豚に起る熱性伝染病。家畜法定伝染病。豚の病気で最も恐ろしいものである。急性の経過をとるものが多く,約 40℃の高熱を出して食欲がなくなり,起立不能となる。一般に初め便秘となり,のち悪臭のある下痢をする。耳根部や下腹部などに発疹や紫斑が生じ,ほとんどが発病後1週間ぐらいで死亡する。夏から秋にかけて多く流行し,特に一度も発生したことのない地域では被害が甚大となるので,予防注射や豚舎の消毒などの予防処置が必要である。

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