デジタル大辞泉
「貸」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
か・す【貸】
〘他サ五(四)〙
① あとで返してもらう約束で、一時的に他人に金銭や
物品を渡す。また、ある期間、場所を使わせる。
※
万葉(8C後)一八・四〇三二「
奈呉の海に船しまし可勢
(カセ)沖に出でて波立ち来やと見てかへり来む」
※伊勢物語(10C前)八二「一年(ひととせ)にひとたび来ます君まてば宿かす人もあらじとぞ思ふ」
② 遊里で、ある客の相手をしている
遊女を、他の客に回す。遊女、または
先客からいう語。
※
浮世草子・好色一代男(1682)五「一時程のうちに、七八度宛
(づつ)かす程に、さてもはんじゃうの所ぞ、
馴染の客数も有かと下を睨
(のぞ)けば」
③ 体の一部を人のために使わせる。
労力、能力、時間などを人に提供する。仮す。
※
洒落本・当世嘘之川(1804)四「彦様 一寸
(ちょっと)耳かしトささやき」
※
金色夜叉(1897‐98)〈
尾崎紅葉〉続「敢て拯
(すくひ)の手を藉さんと為るにもあらで」
④ (動詞の
連用形に
助詞「て」を添えた形に付いて
補助動詞のように用いる) 相手にしてやる。また、してくれる意を表わす。
※浄瑠璃・奥州安達原(1762)四「こなた何ぞ落したか、尋ねるのなら、火をともしてかしてやりましょ」
[
補注](1)近世以前は「借」の字を用いることが多かった。
(2)④の
用法は連用形が
命令法として用いられ、「…てくれ」の意となるが、「かしんか」「か
しい」となる場合もある。「十界和尚話‐五」の「咄してかしんか」、「浪花聞書」の「何何してかしいはしてくれ也」など。
かし【貸】
① あとで返してもらう約束で、一時的に他に金品を与えること。あるいは、そのようにしてあること。また、その金品。⇔
借り。〔名語記(1275)〕
② 江戸時代、
上方(かみがた)の遊里で、先客に揚げられている遊女が、一時、他の客の
もとへ行くことを、先客や遊女側からいう。
※浮世草子・好色一代男(1682)五「此里の習ひにて、たびたびかしに立つ事を」
③ 人から受けた損害や負担を許して、相手に恩をきせること。
※
抱擁家族(1965)〈
小島信夫〉四「俊介には、みちよを自分の家においておきたい、と思う
気持があった。貸しがあるような気持かもしれなかった」
※
塵芥集(1536)一五五条「
ばくちの事、〈略〉やどならびにかしいたし候ともがら」
いら・す【貸】
〘他サ四〙
※書紀(720)天武四年四月(北野本訓)「中戸より以下に与貸(イラシ)たまふ応し」
② ものを貸し付けて利益を得る。利子をかせぐ。
※霊異記(810‐824)中「酒を作り、利(うまはし)を息(イラシ)〈国会図書館本訓釈 息 イ良之〉」
いらし【貸】
〘名〙 (動詞「いらす(貸)」の連用形の名詞化) 貸すこと。貸し付けること。租税として納めた官有の稲を、春季、農民に貸し付け、秋の収穫時に利息をつけて返納させること。〔伊呂波字類抄(鎌倉)〕
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報