日本大百科全書(ニッポニカ) 「資本の回転」の意味・わかりやすい解説
資本の回転
しほんのかいてん
turnover of capital 英語
Umschlag des Kapitals ドイツ語
資本の循環が周期的に反復され更新される過程としてとらえられるとき、その運動を資本の回転という。資本の循環は生産期間と流通期間の合計であるが、これはまた資本の回転期間となり、循環の周期性の度量単位となる。すなわち、資本の回転は一定期間(たとえば1年)を基準として、その間に何回資本の回転が行われるかによって測られる。たとえば、資本の回転期間が3か月であれば、その資本は年4回回転するといわれる。
この回転から資本の形態区分をみると、労働手段のように生産過程に全部的に投下されているが、数回転以上にわたって回転ごとに部分的に価値を新生産物に移転する固定資本と、原材料や労働力のように1回転で必要なだけ投下され、その全部が1回転で価値移転や価値対象化する流動資本との区分が生ずる。これは価値増殖による資本区分である不変資本・可変資本とは異なり、明確な搾取関係を隠蔽(いんぺい)する。
このように回転期間は固定資本と流動資本とによって資本成分に差違があるが、固定資本内の諸成分によっても同一ではない。そこで多様な回転期間を貨幣資本の形態で平均化した循環(1回転)=価値回転が総回転を構成する。この場合もっとも長い固定資本の回転時間を基準にし、他の資本成分の数回転を含む現実的回転を資本の回転循環といい、産業循環の周期性の物質的基礎をなす。
回転期間は生産期間と流通期間とからなり、その短縮は資本の価値増殖を増大する。生産期間は、生産力の発展、労働組織の改良、労働強化などで短縮する労働期間(労働日の総計)と、労働日の延長、交替制による終日稼動などで短縮する労働休止期間(夜間や休日)、それに薬品、装置、自然的条件の改良などにより短縮する非労働的生産期間(発酵、自然育成の期間)からなっており、それぞれの短縮が行われる。販売期間と購買期間からなる流通期間は、市場条件の改善、運輸・通信手段の発達、流通機構の整備により短縮される。これらは、産業の性質、商品の性質、市況の変動、市場の範囲により異なり、それにより資本のなかの貨幣資本・生産資本・商品資本の比率を異にすることになる。これらの短縮(=回転の加速化)により投下資本は節約され、それだけ資本量が少なくてすむか、あるいは資本量同一とすれば、それだけ労働期間の価値増殖に投下される。
とくに可変資本の回転速度が加速化されれば、ある期間、たとえば1年間の剰余価値量はそれだけ増大する。それを剰余価値年率といい、剰余価値率と可変資本回転の積で表す。
このように資本の回転は価値増殖に著しい作用を及ぼす。
[海道勝稔]