改訂新版 世界大百科事典 「交替制」の意味・わかりやすい解説
交替制 (こうたいせい)
1日の労働時間の限度を超えて,操業,営業の時間を延長あるいは継続するために,労働者を組編成にして交替就業させる制度。交替制は,(1)平日の操業時間が24時間か否か,24時間でない場合は深夜が含まれるかどうか,(2)週末いっせい休日がある(週番)か,連続操業(連操)であるか,(3)1日当りの交替の回数(2交替,3交替,一昼夜交替),(4)各交替数をカバーするために編成される労働者のグループ(組)の数などによって,表のような諸方式に分類される。
交替制の問題点
交替制は,事業の公衆サービス的性格や,工程の物理的・化学的性質による連続性などによって必要とされるが,投下固定資本の効率的利用と早期の償却更新といった経済的目標が重なって,あるいは経済的目的のためにのみ,行われることがしばしばである。第2次大戦後の高成長以降の技術革新による大型投資,サービス経済化,オフィス・コンピューター導入などは,交替制労働を各国のあらゆる産業・事業所に広げた。そこで交替制が労働者の心身に及ぼす影響があらためて国際的に問題とされている。とりわけ深夜帯を含む交替制は,夜業昼眠という時刻転倒の生活を労働者に強いるため,さまざまな健康障害や労働能力低下をもたらす。また非労働時間における社会的人間行動は,時刻的制約から貧困なものにならざるをえない。このような負担・苦痛に対する一定の金銭的補償として,深夜割増手当(〈深夜業〉の項参照)や種々の形の交替手当(連操手当,時差休憩手当,中番手当)が支払われる。また交替制の方式は大きくいえば,時間短縮の趨勢のなかで,しだいに労働者の生理的・文化的生活のリズムを生かし,負担を軽減する類型のものに移行している。
日本の交替制
1883年(明治16)8月26日に大阪紡績で始まった昼夜操業下の紡績女工の交替制にみるような12時間2組2交替制(昼勤・夜勤)が,当初一般的であった。その後,女子の夜業禁止(23~5時,1929施行)により,現在女子の多い産業(食品・繊維・衣料)で通常的な8時間2交替(早番・遅番)の方式に移行した。労働基準法による8時間基準の一応の規制は,第2次大戦後の男子型産業の標準的交替制を3組8時間交替方式(昼勤・夕勤または中勤・夜勤,1直・2直・3直)とした。だがこの方式は,(1)直転換を1-2-3と行う正交替の場合に,16時間労働となる連勤が入るおそれがある,(2)逆交替の場合では,直転換の際に間隔時間が短く,〈休養〉不足となりやすい,(3)夜勤の回数が連続3回を超えやすい,(4)休日は暦日24時間でなくて継続24時間でよいとする労働行政もあって,夜勤明けの際に48時間の休養をとりがたいなど労働科学的見地から,批判の対象となった。また週平均56時間の勤務割(24×7÷3)となり,週休2日制導入の傾向とも衝突した。1970年の鉄鋼産業における導入を契機として,今日では4組3交替制(週勤務基本24×7÷4=42時間)への移行が一般的となったが,この移行は往々人員削減と並行して行われ,したがって1日労働時間の延長,休憩の短縮・分割,予備直日の年休強制取得などの時間管理の峻厳化をもたらした。
他方,国際的には,(1)夜勤は1回で継続しない,(2)交替周期は短くする,(3)1日労働時間は8時間を超えない,(4)週末休日をできるだけ増やすなどの観点から,連操の場合の5組3交替制が提唱されてきている。
執筆者:下山 房雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報