イギリスの経済学者。1922年オックスフォード大学卒業後、ケンブリッジ大学にも学び、1924年から1967年までオックスフォード大学クライスト・チャーチ学寮のスチューデント(給費研究生)であった。この間、「エコノミック・ジャーナル」Economic Journal誌の共同編集者(1945~1961)、国際通貨基金(IMF)経済顧問(1952~1953)、王立経済学会会長(1962~1964)を歴任している。
彼の名をまず高めたのは『国際経済学』International Economics(1933)であった。彼はそこで貿易理論に乗数理論を導入し、比較生産費理論が示す貿易の質と並んで、一国の雇用水準や景気の国際的波及に貿易の量が与える効果の重要性を指摘した。また、比較生産費差をもたらすものとして特殊的生産要素の国際的賦存の相違を重視し、ヘクシャー‐オリーン流の接近法を批判している。しかし、ハロッドの名声を不動のものとしたのは動態経済学の分野での諸研究であり、『景気循環論』The Trade Cycle, An Essay(1936)では、後の加速度原理ともいうべきリレーションと乗数理論との結合を図り、景気循環問題を分析した。さらに『動態経済学序説』Towards a Dynamic Economics(1948)では、経済成長を、貯蓄率と資本係数に依存する保証成長率と、労働人口増加率と技術進歩率に規定される自然成長率との関係として定式化し、ドーマーとともに現代経済成長理論の端緒を開いた。なお、これら経済学上の貢献のほか、『ケインズ伝』The Life of John Maynard Keynes(1951)、『社会科学とは何か』Sociology, Morals and Mystery(1971)などの著書もある。
[村上 敦]
『藤井茂訳『国際経済学』全訂新版(1976・実業之日本社)』▽『宮崎義一・浅野栄一訳『景気循環論』(1955・東洋経済新報社)』▽『高橋長太郎・鈴木諒一訳『動態経済学序説』(1953・有斐閣)』▽『塩野谷九十九訳『ケインズ伝』上下(1954、1956・東洋経済新報社)』▽『清水幾太郎訳『社会科学とは何か』(岩波新書)』
イギリスの経済学者。J.M.ケインズの高弟の一人で,ケインズ理論の解説および普及でも有名であるが,ケインズ理論の動学的発展,国際経済学,不完全競争の理論等の分野で独自の貢献をした。オックスフォード大学で長く教鞭をとり,ケインズを中心とする知的エリートの集まり,〈ブルームズベリー・グループ〉の一員でもあった。また1950年代にはイギリスの王立経済学協会の専門機関誌《エコノミック・ジャーナル》の共同編集人を務めた。ケインズの伝記中最も権威ある《ケインズ伝》(1951)の著者でもある。
ハロッドの経済学に対する貢献は,ケインズ理論の動学化,およびその後の動学的成長理論の基礎をつくったことである。ケインズの《一般理論》は1930年代までの古典派に対して革命的内容をもっていたが,その分析は静学的なものに限定されていた。そこでハロッドは今年の貯蓄が次の年の資本ストックの増分に等しく,その増分が労働力と結びついて国民総生産の増加をもたらすことに注目して,ある経済の経済成長率は貯蓄率を資本係数で割ったものに等しいことを強調し,ドマーEvsey David Domar(1914-97)とともに,いわゆるハロッド=ドマー成長モデルを考案した。これはその後の動学的経済成長理論の出発点となった。さらにハロッドは経済成長率の概念に保証経済成長率と自然成長率という二つの区別された考えを導入した。前者は人々がちょうど達成したいと思っている貯蓄率が達成されているときの成長率であり,後者は人口増加率や技術進歩を考慮して社会的に最適の貯蓄率が達成されたときのそれである。ハロッドは資本主義のもとでは現実の成長率が保証成長率からどちらかの方向に一方的にずれる傾向があり,この意味で資本主義経済の〈不安定性〉を強調し,ケインズ的財政・金融政策による経済の調整を支持した。
執筆者:鬼塚 雄丞
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…したがって労働市場や生産物市場での均衡は必ずしも前提にされず,一般には不均衡状態を前提にした経済モデルが展開されるのである。R.F.ハロッドの経済成長論はまさにその典型であり,ハロッドによれば,生産物市場でのマクロ的均衡条件を示す投資=貯蓄の均衡状態は,ひとたび不均衡になればますますその不均衡の程度は拡大されると結論づけられるのである(これに対して新古典学派的接近では,投資=貯蓄の均衡状態は利子率の需給調節機能によってつねに維持されるものと仮定される)。またハロッドによれば,労働の完全雇用と資本の完全利用とが同時に達成されるのは偶然によるのであり,すべての生産要素の完全利用を前提にする新古典学派の理論と対照をなすのである。…
…フィスカル・ポリシーの理論は,アメリカでA.H.ハンセンやA.P.ラーナーにより体系化された。この理論は短期的な安定政策を主要課題としていたが,R.F.ハロッドがケインズ理論の長期動態化を図るとともに,新たに財政政策の長期的目標が問題とされた。ここでは長期的にインフレないしデフレをともなうことなく資本と労働の完全利用と完全雇用を維持するためには,いかなる財政手段を通じて成長率をコントロールするかが問われた。…
※「ハロッド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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