人口の自然増による労働人口の増加分以外に,産業の拡張に備えて失業または半失業を余儀なくされている人々を指す。19世紀中葉のイギリスの現状から,K.マルクスとF.エンゲルスによって資本蓄積の一面としてその存在を意義づけられた。とくに《資本論》では資本蓄積に伴って排出される相対的過剰人口relative surplus-populationが産業予備軍を構成するとされて,この存在形態が詳しく論じられている。過剰人口の存在形態は主として三つに分けられている。まず第1には流動的形態であり,これは産業による労働者の吸引,反発の過程で職を失った労働者や,児童,婦人と置き換えられた男子労働者,職の不安定な中・高年労働者を指す。第2は潜在的形態で,これは農業の資本主義化につれて過剰化した農業労働人口を指す。第3は停滞的過剰人口の形をとるもので,不規則な就労を余儀なくされている家内工業労働者や没落しつつある手工業等の産業部門の労働者から成っている。これら三つの形態に続いて,最下層に属する予備軍として救貧院の公的扶助を受けている労働能力者,孤児,ルンペン,労働無能力者,労働災害の犠牲者(身体障害者,病人,寡婦)が分類されている。最後の層はしかし,通常の産業予備軍の存在形態ではなく,いわば限界的労働供給人口に当たる。これらの産業予備軍は人口の自然増に制約されない資本蓄積のてことして機能するのである。ただマルクスの場合は,資本蓄積に伴って固定設備や原材料への資本投下部分(不変資本)に対する労務費(可変資本)部分が相対的に減少し,したがって相対的過剰人口が形成されることが過度に強調されたため,現役労働者の過度労働,男子成人労働者の婦人・少年への代替などと相まって,傾向として資本蓄積の進行が産業予備軍を絶対的に増加させ,この産業予備軍の圧力が労賃を押しとどめることによって全体として労働者は貧困化する傾向をもつとされた。当時のイギリスの現状に影響された以上のマルクスの論点を,資本蓄積論として採用する人は現在では少なくなっている。
執筆者:大塚 忠
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…資本主義社会制度のもとにおいては,〈資本の有機的構成〉の高度化の結果として失業者が生ずる。これが産業予備軍とよばれる相対的過剰人口である。このように,資本の蓄積過程において一部の労働力は排除されて相対的過剰人口となるのであって,いわばこの相対的過剰人口は資本主義制度に内在する現象である。…
…すなわち,資本蓄積にともなう生産性の増大につれて,資本のうち機械・道具・原料などの不変資本(不変資本・可変資本)に投じられる部分が,労賃に投じられる可変資本部分に比べ相対的に急速に増加し,その比率から成る〈資本の有機的構成〉がたえず高度化する。そのため相対的過剰人口または産業予備軍が累進的に増大する。〈つまり,産業予備軍の相対的な大きさは富の諸力とともに増大する。…
…いわゆる〈相対的過剰人口〉である。マルクスはこれを,〈相対的な,すなわち,資本の平均的な(〈中位の〉とも訳されている)増殖欲望にとって……過剰な,追加的労働人口〉と規定し,また産業予備軍とも呼んでいる。 従来のマルクス経済学はこの規定に対して十分な解明を加えていないが,この場合,中位の(平均的な)増殖欲望とは,社会の生産力の発達程度によって与えられる,労働力の価値水準に見合う剰余価値率の水準と解される。…
※「産業予備軍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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