産業予備軍(読み)サンギョウヨビグン(その他表記)industrial reserve army

デジタル大辞泉 「産業予備軍」の意味・読み・例文・類語

さんぎょう‐よびぐん〔サンゲフ‐〕【産業予備軍】

相対的過剰人口のこと。資本の必要に応じて雇用される失業者・半失業者という意味でこのように呼ばれる。

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精選版 日本国語大辞典 「産業予備軍」の意味・読み・例文・類語

さんぎょう‐よびぐんサンゲフ‥【産業予備軍】

  1. 〘 名詞 〙 マルクス経済学用語資本主義社会の高度化に伴って生ずる完全失業者・半失業者・被救済者などの過剰労働人口をいう。相対的過剰人口
    1. [初出の実例]「横浜まで行けば、産業予備軍が捨てる程居ります」(出典:海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉四五)

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改訂新版 世界大百科事典 「産業予備軍」の意味・わかりやすい解説

産業予備軍 (さんぎょうよびぐん)
industrial reserve army

人口の自然増による労働人口の増加分以外に,産業の拡張に備えて失業または半失業を余儀なくされている人々を指す。19世紀中葉のイギリスの現状から,K.マルクスF.エンゲルスによって資本蓄積一面としてその存在を意義づけられた。とくに《資本論》では資本蓄積に伴って排出される相対的過剰人口relative surplus-populationが産業予備軍を構成するとされて,この存在形態が詳しく論じられている。過剰人口の存在形態は主として三つに分けられている。まず第1には流動的形態であり,これは産業による労働者吸引反発の過程で職を失った労働者や,児童,婦人と置き換えられた男子労働者,職の不安定な中・高年労働者を指す。第2は潜在的形態で,これは農業の資本主義化につれて過剰化した農業労働人口を指す。第3は停滞的過剰人口の形をとるもので,不規則な就労を余儀なくされている家内工業労働者や没落しつつある手工業等の産業部門の労働者から成っている。これら三つの形態に続いて,最下層に属する予備軍として救貧院の公的扶助を受けている労働能力者,孤児,ルンペン,労働無能力者,労働災害の犠牲者(身体障害者,病人,寡婦)が分類されている。最後の層はしかし,通常の産業予備軍の存在形態ではなく,いわば限界的労働供給人口に当たる。これらの産業予備軍は人口の自然増に制約されない資本蓄積のてことして機能するのである。ただマルクスの場合は,資本蓄積に伴って固定設備や原材料への資本投下部分(不変資本)に対する労務費(可変資本)部分が相対的に減少し,したがって相対的過剰人口が形成されることが過度に強調されたため,現役労働者の過度労働,男子成人労働者の婦人・少年への代替などと相まって,傾向として資本蓄積の進行が産業予備軍を絶対的に増加させ,この産業予備軍の圧力が労賃を押しとどめることによって全体として労働者は貧困化する傾向をもつとされた。当時のイギリスの現状に影響された以上のマルクスの論点を,資本蓄積論として採用する人は現在では少なくなっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「産業予備軍」の意味・わかりやすい解説

産業予備軍
さんぎょうよびぐん
industrial reserve army

資本蓄積に伴い形成される相対的過剰人口を,資本が任意に利用できる労働供給源とみなすことにより成立するマルクス経済学の概念。資本の蓄積過程は不断に資本の有機的構成を高度化する傾向をもち,この過程で,自然的人口増加の制限から独立した失業または半失業状態にある相対的過剰人口が絶えず形成され,他面でそれが産業予備軍として現役労働者軍を補充し,また資本による労働需要のどのような急増にも応じうる機能をもつ。この予備軍間の競争は絶えず就業者に圧迫を与え,就業者の資本への隷属 (低賃金と過度労働) を強めるとともに,就業者の過度労働は逆に予備軍の一層の増大へとつながる,という悪循環が生ずる。産業予備軍は,好況期には労働需要増に応じて収縮し不況期には膨張するという景気循環に照応しつつも,平均的にはその一定量が社会の底辺に確保されることによって,労働力商品がその最低限の再生産費 (生存費賃金) で販売される機構を用意し,資本=賃労働関係の再生産を確たるものとする。

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百科事典マイペディア 「産業予備軍」の意味・わかりやすい解説

産業予備軍【さんぎょうよびぐん】

資本制生産から構造的に生み出される相対的過剰人口。失業または半失業状態にあり,就業の機会を待つ労働者の群。その存在が労働者の労働条件低下の原因となり,また景気変動の調整の役割を果たしている。マルクスとエンゲルスが現在就業中の労働者を現役軍にたとえ,これに対比させて名付けた用語。
→関連項目過剰人口

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「産業予備軍」の意味・わかりやすい解説

産業予備軍
さんぎょうよびぐん

相対的過剰人口

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世界大百科事典(旧版)内の産業予備軍の言及

【過剰人口】より

…資本主義社会制度のもとにおいては,〈資本の有機的構成〉の高度化の結果として失業者が生ずる。これが産業予備軍とよばれる相対的過剰人口である。このように,資本の蓄積過程において一部の労働力は排除されて相対的過剰人口となるのであって,いわばこの相対的過剰人口は資本主義制度に内在する現象である。…

【窮乏化説】より

…すなわち,資本蓄積にともなう生産性の増大につれて,資本のうち機械・道具・原料などの不変資本(不変資本・可変資本)に投じられる部分が,労賃に投じられる可変資本部分に比べ相対的に急速に増加し,その比率から成る〈資本の有機的構成〉がたえず高度化する。そのため相対的過剰人口または産業予備軍が累進的に増大する。〈つまり,産業予備軍の相対的な大きさは富の諸力とともに増大する。…

【資本論】より

…いわゆる〈相対的過剰人口〉である。マルクスはこれを,〈相対的な,すなわち,資本の平均的な(〈中位の〉とも訳されている)増殖欲望にとって……過剰な,追加的労働人口〉と規定し,また産業予備軍とも呼んでいる。 従来のマルクス経済学はこの規定に対して十分な解明を加えていないが,この場合,中位の(平均的な)増殖欲望とは,社会の生産力の発達程度によって与えられる,労働力の価値水準に見合う剰余価値率の水準と解される。…

※「産業予備軍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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